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AIとの“協働”が求める価値創出の設計力【第2回】

Chen Yuhao(KPMGコンサルティング マネジャー)
2026年7月8日

 従って、サプライチェーンの不確実性を本質的に解決しようとするなら、AI技術を前提に、サプライチェーンのプロセス、現場オペレーション、データ連携、意思決定の仕組みを再設計する必要がある。

 具体的には、販売データや在庫データ、生産能力、サプライヤーの供給状況、物流状況、天候、地域需要などの情報を接続し、AI技術が需要変動や供給リスクを継続的に把握できる状態をつくる。その上で、生産計画の調整から在庫の再配置、代替サプライヤーの選定、物流ルートの変更といった部門横断のアクションにつなげていく(図1)。

図1:個別業務の効率化から構造的な産業課題解決へ(サプライチェーンの例)

 この段階で重要になるのは、もはや需要予測アプリケーションそのものの精度だけではない。「どのデータを誰と共有するのか」「AI技術の推奨を誰が確認し、誰が最終判断するのか」「予測が外れた場合、誰がそのリスクを負うのか」「安定供給、コスト削減、在庫圧縮、環境負荷低減のうち、何を優先するのか」こうした価値判断と運用方針こそが、AI技術の活用の中心論点になる。

 言い換えれば、AI技術がもたらす本質的な変化は、データや、業務、現場、パートナーを新しい形でつなぎ、課題へのアプローチそのものを再設計できるようになる点にある。企業が考えるべきは「どの業務にAI技術を導入するか」ではなく、「AI技術を前提に、構造的な課題の解き方をどう再構想するか」である。

問われるのは“協働”を設計する力

 AI技術が担う役割は、単なる既存業務の効率化から、AI技術を前提にした新しい仕事や価値の創出へと広がっていく。それに伴い、人とAI技術の協働のあり方も変わっていく。人に求められるスキルも「ツールを使う力」だけではなくなる。

 既存業務の効率化が中心だった段階では、AI技術の出力の質は、人がどれだけ明確に問題を定義し、目的や制約条件を与えられるかに大きく左右された。そのうえで人は、AI技術の出力が正確か、信頼できるか、自社の基準や目的に合っているかを確認しなければならなかった。そのため“攻め”の観点では「問いを立てる力」が、“守り”の観点では「AI技術の出力を見極める力」が重要だった。

 しかし、AI技術が業務や現場により深く組み込まれ、AI技術を前提に価値を創造する段階では、問いを立てる力にとどまらず、先を見据えた洞察力が重要になる。AI技術が、新たな業務モデルや顧客接点、産業構造を生み出すようになれば、企業には、現在の業務の延長線だけではなく、複数の未来シナリオを見通す力が求められる(図2)。

図2:AI技術の進化に伴う人に求められるスキルの変化

 ここでいう“先を見据えた洞察力”とは、未来を正確に予測することではない。むしろ、AI技術によって起こり得る複数の変化を想定し、変化に耐えられる選択肢を準備することである。

 例えば「AI技術が自社の主要な業務プロセスを自動化した場合、組織の役割はどう変わるのか」「新しいAIサービスによって自社の主力商品が陳腐化した場合、どのような価値に転換すべきか」--。こうした問いをあらかじめ考えることが、AI時代の戦略的な備えになる。

 同時に、守りの観点も、単にAI技術の出力リスクを抑えることにとどまらない。倫理的リーダーシップが不可欠になる。AI技術が業務や現場、顧客接点に深く入り込むほど、プライバシーや公平性、透明性、説明責任、信頼性といった論点は避けて通れない。特に、AI技術が自律的に判断し、フィジカルAIが現実世界に作用する場面では、誤判断が実害につながる可能性もある。

 だからこそ人は、AI技術の設計・運用に対して、単に成果や効率を見るだけではなく「信頼される形で運用されているか」「公正性や安全性が担保されているか」を継続的に確認する必要がある。

AIを前提に仕事と価値創出のあり方を再構想できるか

 AI技術は、もはや人の作業を速くするためのツールにとどまらない。企業は、AI技術を既存業務に後付けする発想から抜け出す必要がある。今後のAI技術活用で重要になるのは、AI技術を前提に「どの課題を解き」「どのデータをつなぎ」「関係者がどのように役割を分担し」「どのように意思決定し」「どのルールで継続的に運用するのか」を設計することである。

 これからの企業の競争力は、導入したAI技術の数だけでは決まらない。問われるのは、AI技術を前提に、自社の業務、現場、顧客価値、産業課題への向き合い方をどれだけ再構想できるかである。AI時代に必要とされる協働力とは、人とAI技術がそれぞれの強みを活かしながら、より大きな価値を共に生み出すための設計力なのである。

Chen Yuhao(チェン・ユハオ)

KPMGコンサルティング マネジャー。大手通信会社、外資系コンサルティングファームを経て現職。AIをはじめとする先端技術を活用した新規事業創出、市場開拓、成長戦略の策定を中心に、グローバルプロジェクトを含む多数の支援に従事。近年は、社内AIソリューションの開発に加え、AIエージェントを活用した新規事業・サービス企画の創出にも取り組む。