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デジタルの世界では「すべてが変わる」、データ規模の差をAIで埋めよ

台湾Appier CEO(最高経営責任者) 兼 共同創業者 チハン・ユー氏

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2020年12月22日

――見かけは同じリアル店舗であっても、企業として活用できるデータ量の差で、全く異なるオペレーションなり、サービスが提供できるリアルな店舗だと考えるべきだと。

 その通りだ。規模が小さい、あるいは人材が活用できない企業でも当社のSaaS(Software as a Service)を利用すれば、巨大企業と競争できるようになる。最新のAI(人工知能)技術を合わせて提供するSaaSなので、小さな企業でも人材獲得や多大な投資をせずにビジネスを拡大できる。

――コロナ禍でAppierの顧客層に変化は見られるか。コロナ以前はDXの流れを一早く検知した層だろうが、コロナ以後は必要に迫られてきた層ではないか。

 基本的に大きな違いはない。気づくのが早いか遅いかだけの違いだ。あえて言えば、DXのステージが違う。当社は、どんな顧客に対してもニーズに応え、DXの経験を積むための支援をしてきており、それは今も変わらない。DXと、それを実現するためのAIを求める声が高まっており、それに全力で応えようとしている。

――コロナ禍は、デジタルマーケティング領域の仕組みにも影響を与えているか。

 AIの導入が急増すると考えている。例えば、従来のオフラインデータは、非構造化データがほとんどだった。オンライン化の進展でデータの構造化が進みAIが使いやすくなっている。

 サーバーやコンピューティング能力の進展によりAIは、よりリアルタイムに使えるようになってくる。堅牢性も高まり、シンギュラリティポイント(技術的特異点)に達するようになる。デジタルマーケティング領域へのAI関連技術は、さらに急速に発展し、導入も増えるだろう。

――どういったデータが構造化され、使いやすくなっているのか。

 例を挙げて説明しよう。ある顧客がリアル店舗で色々な商品を選び、レジで購入するとする。このとき、どういったデータが収集できるだろうか。

 最新の店舗なら、まず顧客が店舗に入ってきたときの顔認識などに使うカメラの画像がある。次に、その顧客が、どの商品を見ているのかを認識するために使う位置情報データが得られる。そして、商品をPOS(販売時点情報管理)レジで精算すれば商品データがPOSシステムに格納される。

 この動きだけでも、画像、位置情報、POSの商品データが、異なるフォーマットで混在している。旧来の店舗ならPOSデータだけかもしれない。

 これがオンラインショッピングであれば、誰が、どの商品を、いつ買ったのかが自社でのトランザクションデータから、すべてが明確になる。デジタルな環境で得られるデータは構造化されており、扱いやすさが違う。

――Appierが強化しようとしている機能は。

 製品全体のポートフォリオの中で、よりベストなソリューションを提供するためには、すべてを強化しなければならない。ただ需要が高まっているとい意味では、カスタマージャーニーに対し、より適切に、かつ効率的に対応するための機能だ。AIを使ってトランザクションを強化したいというニーズも高まっている。

 例えば、オンラインとオフラインでは、購買に至るまでの決定方法が違う。リアル店舗では色々な商品を見たり、他店舗に行って比べてみたりと、最終的に購入するまでに、ものすごく時間がかかる。これに対しオンラインでは、ブランドや店舗を早く簡単に比較できるため、トランザクションの結果も早い。

 それでも、オンラインの買い物において、商品比較から購入を迷う人もいる。そんな顧客の振る舞いも検知できるので、商品を買い物かごに入れるのを迷っていることを検知したら、10%ディスカウントのクーポンを出すなどでトランザクションを促せる。こうした仕組みを実現するのが当社の「AiDeal」だ。

――小売業以外でAppierのサービスを使っている業界はあるか。

 デジタルバンキングの急速に変化している、あるいは、よりEC化していると言える。オンラインバンキングは、小売業のECプラットフォームと基本的に同じだということだ。

 具体的には、銀行に来る人の目的は貯金を預けるだけではない。保険商品や投資商品など、さまざまな商品を買いに来ることが考えられる。そうした顧客はこれまで、リアルな銀行の支店を訪ねていた。それがコロナ禍でオンラインに移行してきている。

金融機関のオンライン化が進むことで、より幅広い種類の顧客に対し、さまざまな金融商品を提供できるようになってきている。

――Appierは台湾ベースの企業だ。コロナ対応では、台湾のデジタル担当大臣のオードリー・タン氏の活躍が日本でも広く報道された。台湾はデジタル化を進める人材や、ベンチャーが活躍しやすい風土があるのか。

 台湾に限らず、アジア太平洋地域全体で、起業家精神やデジタルベンチャーが生まれる風土が活性化している。Appier自身、アジアだけでなく、世界15カ国でビジネスを展開している。なかでも日本、韓国、東南アジア、中国を含めたアジア全体でデジタルシフトの勢いを感じる。当社がビジネスを始めた10年前と比べると、急速に活性化した。

――Appierのサービスを使うことで、小さな企業でも大企業と競争ができるという話があった。デジタル人材が不足する日本企業がデジタルと付き合うためのアドバイスを。

 デジタルの世界においては確かに言えることは、「すべてが変わる」ということだ。これは私が仕事を始めたときから変わっていない。すなわち「変化を受け入れて対応していく」ことが大切だ。