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デジタルの世界では「すべてが変わる」、データ規模の差をAIで埋めよ

台湾Appier CEO(最高経営責任者) 兼 共同創業者 チハン・ユー氏

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2020年12月22日

新型コロナの影響もあり、さまざまな業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが加速している。解決したい課題は業界によってさまざまだが、顧客接点を強化するデジタルマーケティングへの取り組みは、いずれの業界にも不可欠だ。AI(人工知能)技術を使ったデジタルマーケティングのためのツールを開発・販売する台湾AppierのCEO(最高経営責任者)であり共同創業者のチハン・ユー氏に、新型コロナ前後の変化などについて聞いた。(聞き手は志度 昌宏=DIGITAL X 編集長、文中敬称略)

――新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、日本ではデジタルトランスフォーメーション(DX)へ関心が一気に高まった。

 COVID-19が加速したかもしれないが、DXは必須の取り組みだ。なぜなら、消費者や顧客の行動のすべてがオンラインにシフトしているからだ。これは、間違いなく世界のトレンドになっている。

写真:台湾AppierのCEO(最高経営責任者)であり共同創業者のチハン・ユー氏

 例えば小売業や金融業などは、これまで物理的な世界でビジネスを展開してきたが、戦う場所が急速に変化してきている。世界がデジタル化しているため、物理的な場所だけで戦っていては生き残れない。今後は、デジタルネイティブなインターネット企業と競争しなければならない。

 しかも、この変化は急激に起きている。ある地域の小売業者は、従来はリアルな店舗にアドバンテージがあったが、今ではEC(電子商取引)部門がコアビジネスになろうとしている。そこでは、デジタルネイティブな小売店と競争し彼らに追いつかなければならず、ネットビジネスへのR&D投資を増やしている。これは小売業界でよく見られている動向だ。

 もはやDXやデジタルの能力は不可欠だ。物理的なアドバンテージが失われていくなかで既存の業界や企業は、自分たちのビジネスを持続可能にし、競争優位性を得るためにデジタルを学びたいと考えている。

――日本はリアルな環境を整備してきたため、デジタル化はゆっくり進行しているように見える。中国や台湾ほかグローバルには、デジタルシフトの速さをどれくらい感じ取れているのだろうか。

 海外では企業のトップまでが状況を十分に認識している。当社はDXのオンラインワークショップを数年前から提供している。以前は、デジタルコマースなどの部門のシニアマネジャー程度までの参加だったが、今はCEO(最高経営責任者)レベルの参加者で溢れるようになっている。

 このワークショップでは、デジタルの急速な変化が訪れるなかで、どのように対応すべきかについて、ベストプラクティスやテクノロジーを紹介している。

――EC自体は決して新しいビジネスモデルではない。それがDXと呼ばれ、急速にシフトしなければならなくなったのはなぜか。

 現状はCOVID-19の影響で世界中の誰もがステイホームの状況にあることの影響が大きい。従来、オンラインは便利な道具の1つでしかなかったが、コロナ禍ではオンラインしか選択肢がないことが往々にある。このインタビューもそうだが、企業がビジネスを運営するには、急速な変化に対応するしかない。

 コロナ以前の環境が戻れば、一部の活動はオフラインに戻るだろう。しかし、ほとんどはオンラインの活動として残るというのが私の意見だ。理由は、その方がずっと簡単に色々なことができるからだ。

 例えばコロナ以前は、スマートフォン用アプリケションで食事を配達してもらう人は、それほど多くなかった。今は多くの人たちがアプリで注文している。便利さに慣れてきたため、これは今後も続くだろう。

 買い物もそうだ。以前は、リアルな世界で店舗を回り、オンラインの世界で検索していた。だがオンラインなら家にいながら、ずっと簡単に比較できる。すると若い人だけでなく、買い物に行くのが大変な高齢者やリタイアした人も、オンラインの便利さに気づくようになる。「便利だ」とわかった振る舞いは続く。

――米Amazon.comなどは逆に、リアルのスーパーを買収したり無人店舗を出したりとリアルな環境に力を入れている。この流れは、コロナによって止まるのか、あるいは違った形のリアルな店舗が生まれるのか。

 非常に興味深い質問だ。これは私見でしかないが、Amazonや中国アリババがリアルな店舗に力を入れ始めたのは、オンラインビジネスにおけるTAM(Total Addressable Market)、すなわちリーチできる対象の成長率が下がってきたからだろう。

 AmazonのTAMには、Amazon上で実際にショッピングをする顧客数(購買人口)と、オンラインプラットフォームを拡張するための投資額の2つの要素があるだろう。しかし、Amazonぐらい大手になると、プラットフォームにいくら投資をしても、購買人口は飽和状態になる。実際、人口比で飽和状態になっていたと思う。すると、1人当たりの購買金額を上げるしかないが、これは非常に難しい。

 Amazonのアドバンテージは、ECプレーヤーとして大量のデータを持っていることだ。顧客や購買に関する貴重なデータが大量にあり、そこからインサイトが得られる。リアルなオフラインの店舗しか持たない小売店とは、持っているデータ量が違う。ビッグデータの優位性を使って、飽和状態にあった成長の可能性を、オフラインに見い出し、それを成長させようと考えたのだろう。

 私たちがAppierを立ち上げたのも、そうした動きこそが大きなビジネス機会になると思ったからだ。Amazonやアリババは、大量のデータだけでなく、そのデータを分析しインサイトを得るための優秀な人材を抱えている。一方で多くの企業は、データを持っていたとしても、それを活用し切れていない。誰もが簡単にデータを利用できるようにすることがAppierの目指すところだ。