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部署単位の小さなDXをオーケストレーションで大きなムーブメントに

コスモエネルギーHD常務執行役員CDO ルゾンカ典子 氏

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2022年5月9日

折角のデータが全社としてつながっていない

 実はエネルギー業界は、プラントなどでのデータ収集・分析は、DXブーム以前から先行して取り組んできた。例えば製油所では、日々の稼働を最適にするために運転データを収集・分析している。石油を採掘し、運び、精製・加工して製品として販売するまでの工程で、大量のデータが生まれている。

 ただ従来は、各工程の最適化を極限まで突き詰めてはきたが、全体としてデータがつながっていなかった。今後は、各工程のデータをつないだり、特定のデータを組み合わせたりすることで、各工程をより強くすると同時に、全体としての価値向上も図る。

 似通った状況が、グループのDXプロジェクトにも見られる。赴任後、さまざまな部門をヒアリングしてみると“小さなDXプロジェクト”が複数、進行していた。だが、ここでも、それぞれが部署単位や事業会社単位にとどまっており、グループ全体のムーブメントになっていないのが現状だ。

 こうした“小さなDX”を大きなムーブメントに変えていくための“オーケストレーション”が必要であり、それをリードするのが私の役割になる。

 そのために現時点で最も重要視しているのが、グループ社員へのデータドリブン文化の植え付けと人材育成だ。現場のスタッフ全員がデータ指向になることと並行して、現場をリードするデータの専門家を増やしていく。ホールディングスの桐山 浩 社長も年始に「グループ全体で本気のDXを目指す」と宣言しているとおり、コスモのDXは全員参加型で進める。

5つのCで社員の意識を変え行動変容を促す

 現場におけるDXへの取り組みを“自分ごと”にするために「Cosmo's 5C」を掲げている。「Chance(機会)、Challenge(挑戦)、Change(変化)、Communicate(対話)、Commit(こだわり)」だ(図2)。

図2:コスモのDXビジョン「Cosmo’s Vision House」に示されたDX戦略と意識改革に向けた「Cosmo’s 5C」

 最初の3つのCは、日常の仕事の中での気づきをチャンスだと捉えることが大事であり、そのチャンスを生かして挑戦し変化を起こすことを示している。この流れは「自らがゲームチェンジャーになる」ということだ。続く2つのCは、社内外の壁を取り払ったコミュニケーションを図り、仕事へのこだわりを持つであり、チームとしての会話から新しい価値を生み出すことを示している。

 私の大学での専攻は心理学だ。全員が熱い思いを抱いてくれなければ組織は動かない。最後のCommitを「こだわり」としたのは、製油所のスタッフは安全・安定操業へのこだわりが非常に強いことに気付いたからだ。「Cosmo's 5C」で、社員の行動変容を促していきたい。

――データ分析が中核にあるDXにおいて「全員参加型」というと全社員にプログラミングスキルなどを身に付けさせようとする動きもある。

 誰もがプログラマーになる必要はない。DXの推進には様々な役割を持つスタッフが必要なだけに、各種スキルを持つ人材がチームを組んで動ければ良い。

 そのために、まずは全社員を対象にしたアンケートを実施する。その回答から、コスモの5Cのうちの、どこに適性があるかを明確にしたい。最も適性があるテーマからDXに参画していけば良い。

 そのうえで、データサイエンスを積極的に勉強したいというのであれば、そうした意欲がある人のグループを作り育成していく。たとえ、そうでない社員にもDX推進のアンバサダー的な役割を担ってもらいたい。

先駆者より追従者をよしとする文化を変える

 質問にあったように、データドリブンと聞くと「私もデータ分析のためのプログラミングを勉強しなければならないのか」と考える人も多い。そうしたメンタルブロックを生じさせないよう、社員と直接対話する場を作っている。最初の敷居を上げないことが非常に重要だからだ。

 現在、各所と順次オンラインで実施しているミーティングでは「データドリブンな企業になるためには日々の気づきが重要で、それがDXにつながっていく」といった話をしている。役員から担当まで幅広く参加いただいているが、ミーティング後はすぐに、いろいろな質問が寄せられるなど、手応えを感じている。

――外資系金融機関などでのデータ活用の現場と比べ、日本のデジタル化には何が足りないのか。

 日本やアジアの企業に多い特徴として、先駆者になるよりも追従者になることをよしとする文化が根付いていることがあると思う。アイデアを直ぐに実践するのでなく、企画書をきちんと作り方向性を確認してから動く人が評価される仕組みになっている。

 そうした文化では、新入社員として社会に出たときは、様々なひらめきがあるにもかかわらず、日々の仕事に忙殺されているうちに、そのマインドが萎えてしまうのではないだろうか。教育においても、知識の伝術が中心になっているが、海外では、個々の考えを尊重し、自ら考えさせる教育が良いとされている。

 こうした考え方のギャップを埋めることも私の役割だ。個々の考えを潰さずビジネスに生かせるよう、社内あるいは社外を含めた意見交流の場を増やすことで、意識変革をサポートしていく。