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帳票は重要な顧客接点、デジタル化が新たな顧客体験を生み出す
イスラエルEasySend CEO タル・ダスカル 氏
イスラエルのEasySend(イージーセンド)は、各種帳票を扱う業務プロセスをデジタル化するための開発・実行環境を提供するベンチャー企業である。金融・保険業界に強みを持ち、申し込みから支払い、請求といった手続き業務の効率化を支援している。2022年6月に日本法人EasySend合同会社を設立し、日本市場拡大に向け本格的な活動を開始したところだ。創業メンバーでCEO(最高経営責任者)であるタル・ダスカル(Tal Daskal)氏に、同社顧客企業が取り組むデジタルトランスフォーメーション(DX)の現状や、成功のポイントなどを聞いた。(聞き手は志度昌宏=DIGITAL X編集長、文中敬称略)
小さな課題解決を重ねることがDXへの近道になる
――帳票関連業務のデジタル化を支援するという貴社製品が提供するのは、主にどのような機能か。
当社の「EasySend」は、既存の紙ベースの帳票を読み込み、オンラインで利用可能にするデジタルフォームを生成したり、そのフォームを使った業務プロセスを自動化するためのクラウドサービスだ。金融機関での口座開設や、損害保険における事故の通知や請求といった手続きに使う帳票をデジタル化する。フォームの作成や業務プロセスの設計などはGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)を使ったノーコードの開発環境を使って実行できる。
企業が扱う帳票類は重要な顧客接点の1つだ。そのフロントエンドをデジタル化することで、顧客に新たなCX(Customer Experience:顧客体験)の提供が可能になる。コロナ禍になり、デジタル化に取り組む動きが加速したことは当社にとって追い風だ。顧客とリモートでつながりたいという需要が高まっており、当社への問い合わせ件数は確実に増えている。
EasySendの機能的には特定業種に限定するものではないが、当社顧客の約8割が金融・保険業の企業だ。
――それほど金融・保険分野の顧客が多い理由は何か。
当社メンバーに金融・保険業界の出身者が多く、両業界のユースケースや知見を多く抱えているからだ。彼らが付き合ってきた企業が最初の顧客になったこともある。
残り2割の顧客層には、医薬品製造や物流、小売り、教育など種々の業種の企業が含まれている。スウェーデンの家具量販大手であるIKEAも当社の顧客の1社だ。
CXが重視されるBto C(企業対個人)領域の利用が中心だが、企業のバックエンドやBtoB(企業間)での利用例もある。例えばアメリカの信用組合では、新入社員に求められる各種の登録作業にEasySendを利用している。日本の海上保険会社は船舶保険分野にEasySendを導入し、企業を対象にした事故保証業務に適用している。
――日本法人を2022年6月を開設したが、海外ではどの地域の顧客が多いのか。
最も顧客数が多いのは北米だ。他地域に先行し2年ほど前から営業活動を進めてきた。「Fortune500」(米フォーチュン誌が発表する総収入の上位500社)の顧客もいれば、1000人規模の顧客も多数いる。
本国のイスラエルでは、全世界で販売されているコーラ飲料と同じぐらいEasySendのブランドが知られている。多くの金融機関がEasySendを使ったサービスを提供しているが、彼らが消費者が直接目に触れるところに「Powerd by EasySend」と表記してくれているからだ。
これから本腰を入れる日本市場にもすでに大手顧客を複数獲得できている。今後は、大企業だけでなく、数百人規模の企業にも提案できるようにしていく計画だ。
ただ日本企業とのビジネスには時間がかかることも承知している。信頼関係を構築する必要があるからだ。加えて、日本の大手企業は、製品/サービスの市場投入においては高い品質レベルを求める傾向にあることもある。しかし、そうした声に応えていくことは高品質なサービスをグローバルに展開でき、競争力の強化につながっていくだけに、日本市場で得られる知見には大いに期待している。