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部署単位の小さなDXをオーケストレーションで大きなムーブメントに

コスモエネルギーHD常務執行役員CDO ルゾンカ典子 氏

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2022年5月9日

コスモエネルギーホールディングスは「Oil & New」を掲げた2022年度までの第6次連結中期経営計画で、従来の石油事業に加え、風力を中心にした再生可能エネルギー事業を推進している。そして2021年11月、グループCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)職を新設し、外部から招いたルゾンカ典子 氏を初代CDOに起用した。2023年度からの第7次連結中期経営に向けたデジタル戦略の策定が託されるルゾンカ氏に、コスモエネルギーグループにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の方向性を聞いた(聞き手は志度昌宏=DIGITAL X編集長、文中敬称略)。

――2021年11月、コスモエネルギーホールディングスの初代CDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)に就いた。昨今、デジタルトランスフォーメーション(DX)のキーワードは、コンピューター活用全般を指すほどに使われているが、コスモエネルギーグループにとってのDXとは何か。

 CDOとして私が担当するのは、コスモエネルギーグループ全体のデジタル戦略の策定と実行だ。そこには社内業務システムの構築・運用など、従来のIT部門が担当してきた領域や、サービスステーションの顧客に提供しているスマートフォン用アプリケーション「Carlife Square(カーライフスクエア)」といったマーケティング領域も含まれる。

写真:コスモエネルギーホールディングス 常務執行役員CDO ルゾンカ典子氏

 DXへの取り組みは、デジタル技術を活用して変えて終わりというものではない。その名のとおり、トランスフォーメーションによってビジネスを抜本的に変え、新しい企業価値を生み出さなければならない。それを実現するためには、社内の業務システムなど足場も固めなければならない。データ分析基盤の整備も不可欠だ。

DXブームは日本にデータサイエンスの時代が訪れた証

 確かにDXという言葉の使い方については乱用気味だとは感じている。だが、これほどの流行語になったことで、各企業が予算を付けやすくなっていることは、好機と捉えている。ビジネスの真ん中にDXとデータが引っ張り出され、それがビジネスの力になることが世間的に認められてきた。日本でも、まさにデータサイエンスの時代が訪れたととらえている。

――CDO就任以前は主に金融業界に籍を置いてきた。エネルギー業界に移ることに不安などはなかったか。

 意外に思われるかもしれないが、金融業界とエネルギー業界には近しいところもある。業界に厳しい規制があることもそうだが、まさに社会のライフラインを担っていることだ。そもそもDXの推進に必要なものはデータと人材であり、これは、どの業界でも変わらない。個人的にもエネルギー業界に興味があり、AI(人工知能)やデジタルといったテクノロジーによって新しい価値を生み出せると考えていたため、CDOのオファーを頂いた際は即断した。

 私はこれまで、米国の保険会社でデータサイエンティストとして働き、帰国後も外資系金融機関でデータ分析部門をリードしてきた。だが、この30年に取り組んできたことは、ずっと変わらない。データを使って顧客とビジネスを理解し、ビジネスに新たな価値を創り出すことだ。

 海外企業は、ビジネスにインパクトを与えられるデータ分析を以前から徹底してきている。逆に、データ分析でビジネスの役に立たないのなら、学術を追究する研究所にいたほうが良いと思うほどだ。

 ただ、20年ぐらい前のデータ分析には力不足のところがあった。コンピューターの性能やキャパシティの問題から、分析モデルを作るにも一晩かかるなどしていたからだ。それも今は、各種性能が向上し、分析結果が、すぐに出せるようになってきた。コンピューターの環境的にもデータ分析の時代になっている。

――日本ではCDOは、なかなか増えない一方で、グループ会社にもCDOを置く動きもある。コスモエネルギーグループとしては、どう展開するのか。

 CDOとして担当するプロジェクトの範囲は広いが、私が率いる「コーポレートDX戦略部」の人員数は10人程度だ。各事業会社にもCDOは置かない。そこでの我々は、事業会社各社が取り組むDXの“ハブ”の位置付けだ。成功事例の共有や具体的な推進方法、社内外とのパートナシップの確立などを“伴走型”で提供していく。DX関連プロジェクトのオーナーシップは、あくまでも各事業会社/部門にある。

図1:ルゾンカCDOが率いる「コーポレートDX戦略部」の位置付け