• Interview
  • 共通

“データファースト”な経営への転換は待ったなし、全社のデータを見るCDOの設置も

米Informaticaのアミット・ワリアCEO

田中 克己(ITジャーナリスト)
2023年9月27日

データ管理のクラウドサービスを手掛ける米インフォマティカは「データファースト」を提唱している。データファーストとは、データを包括的に使うことであり、そのために部門ごと、事業ごとなどにサイロ化されているデータを意思決定に活用できるよう融合・統合することだ。同社CEO(最高経営責任者)のアミット・ワリア氏は、日本企業のデータファーストへの転換は「待ったなし」だという。

 「世界経済の先行きが不透明な中、世界各国の企業の3分の2がデータ管理への投資を拡大する予定」――。データ管理のクラウドサービスを手掛ける米インフォマティカが2023年2月に発表した『企業のデータ戦略の最新動向に関するグローバル調査』は、企業のデータ戦略や投資計画などをこう予測する。

 同調査は、日本や米国、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア、シンガポールなど11カ国のCDO(最高データ責任者)やCAO(最高分析責任者)、CDAO(最高データ分析責任者)ら600人を対象に実施されたもの。同調査では、日本企業の67%が「2023年度にデータ管理への投資を拡大する」と答えている。

 だが、経営者からは、「データはあるもののバラバラで活用できる環境が整っていない」「人材不足やスキル不足などからデータを活用したビジネス展開は難しい」とする声も聞こえてくる。

 事業部門やIT部門なども、経営者の「デジタル化に取り組め」といった指示に従うものの、その目的を理解しないままに受け身で作業を進める結果、PoC(概念実証)を繰り返す。それが日本の現状ではないのか。そんな疑問をインフォマティカのアミット・ワリアCEO(最高経営責任者)にぶつけた。

――日本では、CDOやCAOを置く企業は極めて少ない。

 日本企業は、アプリケーションやデータベース、クラウドプラットフォームに注目する傾向が強い。そうした視点から「データファースト」のマインドに切り替える必要がある。アプリケーションやデータベースは変更できるが、データは変更できないだけに、データをきちんと活用できるようにし、ビジネスの意思決定に役立てるべきだ。

米インフォマティカのアミット・ワリアCEO(最高経営責任者)

 今の日本は、米国の5年前と同じような状況にある。3年から5年もすれば、日本企業にもCDOが配置されているだろう。何事にも前例のないところでは、いろんなことが起きる。10年前、米国企業にもCDOはいなかったが、今は70%の企業にCDOがいる。日本でも同様の変化が起こるだろう。

 データファーストになるには、まずはデータが包括的に管理されていない現状を認識することが大切だ。それは、データがサイロ化されている中で、企業としての意思決定が完璧な情報に基づいて下されていないということだからだ。

 情報やデータを取りまとめビジネスの意思決定に活かせるのは、データを持っている人である。各事業のリーダーは自身が担当する小さなエリアだけを見ている。データを一括して持ち、ビジネス全体に役立てるのがCDOの役割である。

 日本企業に選択の余地はない。AI(人工知能)時代にCDOなしではやっていけない状況になる。私も日本の経営者に理解してもらえるよう話をしているし、当社のビジネスが浸透するようパートナー企業と協力もしていく。

――データファーストに向けて、CDOの不在以外に日本企業には何が不足しているのか。

 日本企業の経営スタイルは、アプリケーション中心型だと思う。別の言い方をすれば、ERP(統合基幹業務)やSCM(サプライチェーン管理)、人事といったアプリケーションのプロセスごとにビジネスを見ている。その対極にあるのが、エンドツーエンドのビジネス中心型の経営だ。個々のプロセスを注視するのではなく、ビジネス全体を見るということである。

――エンドツーエンドのビジネスを見るのはCDOの役割ではないのではないか。

 確かに、エンドツーエンドのビジネスを見るのはCEOやCFO(最高財務責任者)だ。だがエンドツーエンドのデータを見るのはCDOの役割になる。

生成AIの時代は「良いテータ」と「悪いデータ」の見極めが重要に

 生成AIがデータ活用に新たな問題を生んでいる。偽のデータが生成され意思決定に大きな影響を及ぼす可能性があることなどだ。データの品質や信頼性が問われる。

 当社のクラウド上で稼働しているデータ管理プラットフォームは、他社より優れたデータ品質の管理機能を持っている。「良いデータ」と「悪いデータ」を正確に見極めるもので非常に重要な働きをする。良いデータを識別し、それをAIシステムに取り込めば、正しい意思決定に活用できる。

――繰り返すが、日本企業が本当にCDOを獲得・配置できるだろうか。

 当社はグローバルな「CDOアドバイザリボード」を持っている。世界中のCDOを取りまとめるネットワークで、CDOの役割やCDOがどんな価値を創出するのかなどを議論したり意見交換したりするCDOのコミュニティを形成している。ただ現時点ではCDOコミュニティに参加する日本企業は1社に留まっている。

――CDOコミュニティの参加企業が1社といった状況では、日本ではデータ管理プラットフォームは売れる状況にはないのではないか。

 そんなことはない。CDOが不在でも当社のビジネスは成り立っている。例えば、データマネジャーやデータアーキテクトなどは配置されている企業はある。もちろん日本企業にもCDOがいれば、ビジネスの伸長は2、3倍にはなるだろうが、現状でも2、3年後には売り上げを今の2倍にしたい。

 グローバルでは2023年第2四半期(4~6月)は、好調な四半期であり、すべての主要なパフォーマンス指標においてガイダンス範囲の上限を上回った。今期は前期比で5%増程度の15億7000万ドルから15億9000万ドルの売り上げを見込んでいる。特にサブスプリクションモデルが伸びているが、日本企業のクラウド化・モダナイゼーション化が本格化するのはこれからだと見ている。