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ジェネレーティブデザインが設計時の素材選定や工場建設までを変えていく

米Autodesk COOのスティーブ・ブラム氏とCCOのエリザベス・ゾーンズ氏

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2023年11月13日

製造業において環境意識が一層高まっている。ものづくりの現場で、人、データ、プロセスはどのように連携していくべきなのか――。3D(3次元)設計ソフトウェアなどを手がける米AutodeskのCOO(最高事業責任者)スティーブ・ブラム(Steve Blum)氏とCCO(最高顧客責任者)エリザベス・ゾーンズ(Elisabeth Zornes氏)に、ものづくりの現場で起きている変化や、デジタル技術を活用した取り組みなどを聞いた。(文中敬称略)

――コロナ禍以降、製造業を取り巻く経営環境は従来になく変化している。顧客企業の取り組みから、どのような変化を感じているか。

米Autodesk CCO(最高顧客責任者)のエリザベス・ゾーンズ(Elisabeth Zornes、以下ゾーンズ) :製造業は常に、生産性の向上や、企画・開発から市場投入までのサイクルの短縮などに取り組んでいる。これらの課題を乗り越えるために近年は、事業を取りまとめる部門と設計・製造部門などが連携し、顧客に対し同じ目線で向き合う動きが高まっている。解決のスピードを加速するために、社外のサプライヤーまでを自社のワークフローに組み込むかも考えられている。

写真1:米Autodesk CCO(最高顧客責任者)のエリザベス・ゾーンズ(Elisabeth Zornes)氏(右)とCOO(最高事業責任者)のスティーブ・ブラム(Steve Blum)氏

アジャイルに向け全プロセスをデジタル環境で実行

 最新の設計・製造プロセスでは、そのすべてをデジタル環境で実行でき、多くの関係者がアジャイル(俊敏)な、ものづくりに参加できるようになっている。従来は分離されていた領域がつながり出したことで、製造プロセスにおいて大きなコスト改善効果を生みだせる。

 新しいプロセスに特に関心が高い業界が自動車業界だ。より革新的で効果的な設計手法を強く望んでいる。多くの自動車メーカーは伝統的に、クレイ(粘土)モデル作りから始め、そのモデルを何度も繰り返して改良しながら、性能を最適化するためにシミュレーションを実施してきた。だが、ある自動車メーカーが、デジタル技術を活用した新しいプロセスを採用したことで、自動車業界全体に同様のニーズが広まっている。

 例えば、EV(電気自動車)メーカーの米リヴィアン・オートモーティブは、パーツやモジュールをVR(Virtual Reality:仮想現実)環境に再現し、バーチャル環境でのデザインを始めている。合意形成の迅速化を図るのが目的だ。このデザイン手法は、映画の製作などに用いられてきた技術を利用している。

 そうした利用に対応するために当社製品には、クルマのシートに使う繊維などの素材をスキャンし3D(3次元)モデルにドラッグ&ドロップすれば、実際にどのような外観になるかを再現できるツールもある。

米Autodesk COO(最高事業責任者)のスティーブ・ブラム(Steve Blum、以下ブラム) :ここで重要なのは、完全な3Dモデルだということだ。私も、いくつかの自動車会社のデザインスタジオを見学したが、ほとんどがVRラボを備え、未来のクルマのデザインを3次元で確かめている。実際にバーチャルなクルマに乗り込みダッシュボードをのぞき込んだりができる。こうした自動車業界のユースケースは他業界にも応用できる。

――現在、生成AI(人工知能)への期待が高まっている。ものづくりには、どんな影響があるか。

ゾーンズ :設計プロセスにおいては既に、モデルに、さまざまなバリエーションを見つけ出すために、AI技術を使ったジェネレーティブデザインの採用が一般的になっている。

ブラム :その動きをサステナビリティ(持続可能性)への関心の高まりが加速しようとしている。同分野は、多くの顧客企業から支援を求められているし、当社にとっても重要な投資分野だ。そのためのコンサルティング体制をCCOが率いるチーム内に構築し、世界展開する大手製造業などが成果を挙げられるよう支援している。

ゾーンズ :一例を挙げれば、ある航空機用タービンの製造会社とは、騒音を40%削減し、燃料使用量を30%以上削減するという野心的な目標に取り組んだ。その中で、タービンを回してエネルギーを生み出す軸になるローターの形状を再設計する取り組みにおいて成果を得られた。