• Interview
  • 共通

企業のAI活用は、”人が主導権を握る”設計で成否が決まる

米SAS Institute エクゼクティブ・バイス・プレジデント兼CTO ブライアン・ハリス氏

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集長)
2026年9月29日

――ガバナンスが便利になり過ぎると、人間の判断力を弱めないか。“守り”だけでなく、“攻め”の側面はあるか。

 確かに懸念はある。だからこそ、ガバナンスを容易にすることが技術企業の課題になる。AI倫理担当VPのレジー・タウンゼント(Reggie Townsend)が年次イベントの基調講演で述べたように、責任ある行動を「魅力的で断れないもの」にしなければならない。人々が自ら使いたいと思う設計が要る。

 この設計が“攻め”の側面を生む。経営陣や取締役会は、AI技術でワークフローや事業をモダナイズしている証拠を示し、AI変革のストーリーを取締役会や市場に語る材料にする。ガバナンスは、単なるコンプライアンスの範囲を超えて、事業の資産に変わる。

合成データとデジタルツインが実データの限界を補う

――統計どおりに現実が動かない場合、その信頼性をどう担保するのか。

 例えば金融機関での不正検知では、実データが偏っている領域を「合成データ」で補う考え方を取る。例えば、100万件の取引のうち不正が1000件だとする。不正の記録が極端に少ない「クラス不均衡」があると、モデルが学べる信号が乏しく、精度が上がらない。

 そこで、本物の不正取引を基に疑似的な不正取引を大量に合成し、正常な取引との件数の釣り合いを取る。統計的な一般化が進んだモデルを実際の環境に戻すと、不正を見つける力が高められる。

――合成データはデジタルツインにも広がるのか。どのような課題に使うのか。

 デジタルツインは、合成データを生み出す環境であり、現実では試せない条件を低いコストで繰り返し試す手段でもある。SASは、ゲームエンジン「Unreal Engine」(米Epic Games製)向けのプラグインを開発した。これによりデジタルツインの環境に配置したアセットから、テレメトリデータ(機器の稼働データ)を分析基盤に流し込み、分析手法と機械学習を適用できるようになる。

 合成データとの接点が明確なのが安全性の向上だ。ロボットと作業員が同じ空間で働くケガを防ぐため、工場のラインでコンピュータービジョンのモデルを作るには、種々のシナリオで多数の人物を用意する必要があり、現実的ではない。そこでデジタルツイン上に架空の人物を配置し、危険な位置や複合的な環境の映像を学習させる。架空の人物なのでプライバシーの心配がなく、モデルが短期間で仕上がる。

 その最適化では中東のある空港で、VIP専用エリアを設ける計画に合わせ、VIPレーンと通常レーンを歩く人々を、高齢者や子連れの親といった属性の違いも含めてシミュレーションしている。レーンを3本にするか4本にするか、スタッフを何人雇うかといった問いを検証できるようにしている。

 製造業では、紙製品などを手掛ける米Georgia-Pacificの例がある。フットボール場4面分の施設で多数のAGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)が動く中、パレットがトラックに届くまでの平均ミッション時間を最短にするため、AGVのルートと台数を最適化した。