- Interview
- 製造
AI時代が求める「成果主義」のビジネスで、サステナビリティが価値提供の必須要件になる
米Autodesk CSO(最高サステナビリティ責任者) ジョー・スパイカー氏
AI(人工知能)技術の急速な普及に加えて世界的な規制遵守(コンプライアンス)の強化が、あらゆる産業のビジネスモデルを揺るがしている。3D CAD(3次元でのコンピューターによる設計)ソフトウェアなどを手掛ける米Autodesk CSO(最高サステナビリティ責任者)のジョー・スパイカー(Joe Speicher)氏に、デジタルと環境対応がもたらすビジネスの変化の動向を聞いた。世界の先進企業は、サステナビリティを推進力に新たな収益モデルを実践しているという。
――AI(人工知能)技術の進化は、製造やAEC(Architecture, Engineering & Construction)業界のビジネスモデルにどのような変化をもたらしているか。
完全に自動化された製造現場や、AIエージェントが数秒で最適な設計図を作成する未来を想像してほしい。作業時間が劇的に短縮されたとき、現場の工数や設計にかかった時間に対して報酬を支払うロジックは通用しなくなる。だからこそあらゆる業界は、時間ではなく「アウトカム(成果)ベースモデル」へと移行しなければならない。
例えば既に、欧州の高速道路や駐車場に対しては、民間企業が建設のみならず運営までを担い、実際の利用状況やパフォーマンスに応じて報酬を受け取る「コンセッション方式」で契約するといった先進事例がある。
つまり、納期通りに建物を引き渡したり、環境対応の下で運用・維持したりするといった、顧客にもたらした明確な価値や性能に対して対価が支払われる仕組みへと転換していく。AI技術による環境変化は、この高利益なアウトカムベースへと移行する好機となる。
――なぜ、アウトカムの評価軸がサステナビリティになるのか。
最大の契機は2015年、気候変動問題に関する国際的な枠組みである「パリ協定」の発足だ。それ以前、企業にとって環境対応とは「できたら素晴らしい付加価値」として見られ、余裕のある企業だけが高いコストを払って実行してきた。
しかしパリ協定以降、世界中の政府がCO2(二酸化炭素)削減を義務付けたことで、守らなければならない規制要件になった。今やサステナビリティは、取締役会や経営幹部が直接関与すべき最重要の経営リスクであり、ビジネスチャンスともなっている。
世界的には現在、環境対応の焦点が、建物の運用局面などで電気を賢く使う「省エネ」から、モノを作るときの上流である「材料」に注目が移っている。
それを示すデータとしては2025年、世界の電力網に供給された全エネルギーの43%が、再生可能エネルギーと原子力発電になり、世界全体で再エネ移行に2.3兆米ドルが投じられた。既に43カ国が、経済を成長させながら、CO2排出量を減らすという戦略の両立に成功している。
電気のクリーン化が進んだ結果、相対的に材料を作るときに排出されるCO2の割合が上がっている。20年前の建物と比べれば、現代の建物は総CO2排出量に占める材料の“重み”がまったく違う。材料の調達から効率化できる企業が、市場で高く評価されるようになっている。
運用支出を見据えた環境対応は長期的にはコスト削減になる
――日本では、サステナビリティはコストという認識がいまだに大きい。どうすればビジネスに組み込めるのか。
日本では、2028年までに全ての建物に対する「LCA(Lifcycle Assessment)」を義務付ける規制が公布されたことによって、建物のライフサイクルを通じて排出されるCO2を評価する仕組みが求められるようになる。
企業をCO2対応へと動かすには、インセンティブと規制、言い換えれば「アメとムチ」の双方が必要だが、LCAの義務化は強力なムチとなる。CO2排出量が強制的に可視化されれば、市場は環境負荷の高い企業よりも、削減に努力している企業に報いるようになるだろう。
同時にアメの施策としては、経済的メリットにも目を向けるべきだ。「サステナビリティはコストがかかる」と言われるのは、建物を建てるための初期費用として「CapEx(Capital Expenditure:資本支出)」しか見ていない誤解によるものである。
資材の耐久性を高めることによる建物の長寿命化や、将来発生するエネルギーコスト削減などの「OpEx(Operating Expenditure:運用支出)」を考慮すれば、ライフサイクル全体の総コストは確実に低くなる。LCAをきっかけに、日本企業もこの大きな経済的効果を実感し始めるはずだ。
