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大企業が陥りやすい「DXの5つの罠」、ITRの内山 悟志 会長が指摘
2019年10月23日
デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業数は増えているが、実際に企業変革を成し遂げた日本企業は少ない。なぜうまくいかないのか。独立系のIT調査/コンサルティング会社ITRの内山 悟志 会長が、2019年10月3日に開いた年次イベント「IT Trend 2019」に登壇し「DXの5つの罠」を指摘した。どんな罠で、それには、どんな回避策があるのだろうか。
ITR会長の内山 悟志 氏は、同社の創業者で四半世紀にわたり経営とITの関係を調査するとともに、日本企業のIT活用の道筋を提言してきた。その内山氏は、「企業の経営者は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性を十分認識はしているものの、その目的が不明瞭だったり実践する方法論を誤ったりするケースが多い」と語る(写真1)。
特にDXを実践する段階に日本の大企業が陥りやすい「5つの罠」があるという。その5つとは、(1)DXごっこの罠、(2)総論賛成の罠、(3)後はよろしくの罠、(4)形から入る罠、(5)過去の常識の罠である(表1)。
DXごっこの罠 | 何のために、どこを目指してDXを推進するのかが明確でないまま、AIの試験的導入や技術適用の実証実験(PoC)を実施する |
総論賛成の罠 | 誰もがDXは重要だと言うが、いざ自分の部門・業務に影響が及ぶ各論になると反対またはスルーを決め込む |
後はよろしくの罠 | 経営者は、DX推進組織を立ち上げて人をアサインしたら役割を果たしたと考え、その後の活動を円滑に進めるための環境づくりや後方支援を怠る |
形から入る罠 | インキュベーション制度の設置や社内アイデア公募・社内アイデアソンの活動など、やっている感は出すのだが、活用されない、続かない、本番にならない |
過去の常識の罠 | DXの推進にあたってまず事例・前例を探す。人の評価も、投資判断の基準も、組織文化も、これまで成功してきたやり方や考え方を変えようとしない |
いずれの“罠”を見ても「確かにありがち」と思える内容だ。そのうえで内山氏は、これら5点に共通して言えるのは「経営者の意識の問題だ」と説明する。
実際、ITRの調査によれば、8割以上の経営者が「企業変革やデジタル技術の活用を重要」と考えている。にもかかわらず「デジタル技術の動向やIT活用について十分な知識を持っている」と答えたのは、その半分に相当する4割程度しかない。
「DXをトップダウンで進められるのであれば、5つの罠に陥ることはない。それが多くの大企業は、第1の罠である、経営者がDXの本質と自社が向かうべき方向性を理解しないまま『DX的なもの』を追い求めてしまう。その結果、たとえば第3の罠のように、誰かに丸投げせざるを得ない」と内山氏は指摘する。
デジタルがわからなくても丸投げせず後方支援に回る
5つの罠へ処方箋が表2である。
「Why」の徹底的な追及 | なぜ、自社にとってDXが必要なのかについて、経営者から従業員まで全員が腹落ちするまで徹底的に議論し、DXでどこを目指すかへの「思い」を共有する |
小さな取り組みから始める | 当初は難易度が低く、短期で成果が出せそうな小規模な施策から取り組み、その成果をアピールしながら対象範囲を広げたり、大きな施策へと展開させていく |
賛同者・協力者を見つける | 小さな取り組みを開始したら追従者(フォロワー)を見つけ大切にする。フォロワーと一緒に行動し、賛同者・協力者を巻き込みながら活動を拡大していく |
実体験を重視する | 新たな技術や考え方について、書籍や研修での知識習得、会議や資料での検討だけでなく、実際に制作したり、利用するなどして、実体験から学びを得る |
「外の世界」に触れる | ずっと同じ世界に閉じこもっていると「疑問」を持たなくなる。自分自身も周囲の人にも、外部と接触し、自社・自組織・自分を客観的に見る目を養うようにする |