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持続可能な快適さへシフトするヨーロッパのデジタルトレンド(前編)

ベルリンの「IFA 2019」に見るSociety 5.0時代のスマートライフ

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2019年11月19日

「IFA(イーファ)」は、ドイツの首都ベルリンで毎年9月に開催される国際コンシューマ・エレクトロニクス展。米ラスベガスで年始に開催される「CES」に並ぶヨーロッパ最大規模の展示会だ。ここ数年は、製造業の「Industry 4.0」からスマートシティへとテーマを拡げている。2019年のIFAから注目すべき話題を前後編に分けて紹介する。前編では、生活に密接したデジタルトレンドをまとめる。

 「IFA(イーファ)」は1924年の初開催から90年以上続くエレクトロニクス分野の国際展示会である。最先端の放送技術が発表されるドイツ放送展として始まり、1930年にはアインシュタイン博士がオープニングスピーチに登壇したこともある。2006年から毎年秋にメッセ・ベルリンで開催されている。2019年の会期は9月6日から11日までの6日間。約160カ国から24万人超の来場者が訪れた。

ヨーロッパ市場を狙い世界中の大手企業が出展

 メイン会場の「メッセ・ベルリン」だけで26の展示ホールがあり、敷地面積は東京ビッグサイトのほぼ倍。そこに大手メーカーら約2000社が出展する。ヨーロッパ勢では、地元ドイツのBOSCHやシーメンス、T-Mobile、蘭フィリップスなどが、日本からもソニーやパナソニック、ヤマハなどが大規模ブースを構える。韓国のSAMSUNGやLG、中国のハイアールやファーウェイといったアジア勢も出展に力を入れている。

 展示内容は生活家電を中心に、オーディオ機器、デジタルデバイスやその周辺機器が中心だが、最近はデジタルヘルスやスマートホーム、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)に関する展示も増えている。米Amazon.com、米GoogleらによるAI(人工知能)や自動運転車といった最先端テクノロジーの展示もあるが、全体的には大型家電量販店のショールームのような印象が強い。

 多くのブースでは、実際に購入できる商品を体験できるようになっており、気に入れば、その場でオンライン注文ができる。そのためか来場者はビジネスパーソン以外に、家族連れや校外学習の学生たちも少なくない。「Young IFA」という子供向けコーナーもあれば、夜には会場内で屋外コンサートが開催されるなど、幅広い世代が参加する地域イベントとしての一面もある。

食品ロスを削減するFoodTech関連の出展が増加

 IFAでは生活に密接したコンシューマ製品が多数展示される。2019年は特に、食の流通や廃棄、質に関する課題を解決するFoodTech(フードテック)関連が目立っていた。具体的には、食品ロスを減らしながら、鮮度の高い食品を手に入れるための家電製品であり、フードマイレージを意識した地産地消に力を入れたサービスが増えている。

 この背景には、ヨーロッパが国レベルで進める食品廃棄物削減への対応がある。ドイツ政府は2030年までに食品廃棄物を半減する取り組みを発表。フランスでは食品廃棄禁止法を制定し、スーパーが売れ残りの食品を廃棄することを法律で禁止した。

 FoodTechの一例が、BOSCHの「SmartGrow」だ(写真1)。特許を取得済みの水耕栽培キットを使い、付属の肥料と水だけで自宅で野菜やハーブを育てる。種はカートリッジ型になっておりオンラインで注文できる。栽培した野菜を使ったレシピも検索できる。野菜のビタミンを増やし、鮮度を維持したまま保存する機能を持つ冷蔵庫も併売している。

写真1:BOSCHの「SmartGrow」は食卓で野菜を手軽に育てられる

 トルコの家電メーカーであるアルチェリッキが「Neopia」ブランドで展開する「Micro Garden」は、野菜やハーブに適した水耕栽培のための製品だ(写真2)。業務用冷蔵庫ほどの大きさの装置で複数の野菜を同時に育てる。育成状況をIoTで管理し、ビタミンやミネラルが豊富になるよう栽培システムをAIで自動制御する。

写真2:水耕栽培をAIで全自動管理できる「Micro Garden」

 他にも同様の機能を持つ製品が複数のブースに出展されていた。ヨーロッパでは今後、一般的な家電製品として定着するのかもしれない。