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持続可能な快適さへシフトするヨーロッパのデジタルトレンド(後編)
ベルリンの「IFA 2019」に見るSociety 5.0時代のスマートライフ
「IFA(イーファ)」は、ドイツの首都ベルリンで毎年9月に開催される国際コンシューマ・エレクトロニクス展。前編では、生活に密接したデジタルトレンドをまとめてみた。後編では、2018年から併催されているモビリティをテーマにしたカンファレンス「Shift Automotive」から、新しいモビリティの姿やスマートシティとの連携などを紹介する。
「IFA(イーファ)」は、90年以上の歴史を持つ家電製品の国際展示会だ。ここ数年は、情報発信や交流を重視する新しいプログラムをいくつか追加している。2014年に追加した「IFA+Summit」では、デジタル業界の未来について、さまざまなジャンルのスピーカーたちが語り合う。2017年からは「IFA NEXT」を開催しており、世界各国からイノベーティブな企業やスタートアップ企業、大学や研究開発機関などが集まってくる。
「Shift Automotive」は、モビリティをテーマにした新しいプログラムとして2018年に追加された。「The Future of Mobility」をテーマにしたトークディスカッション形式のイベントで、IFA会期最後の2日間に開催される。自動車メーカーの研究機関やMaaS(Mobility as a Service)系スタートアップ、地方自治体、アナリストやデザイナー、ジャーナリストなど、さまざまな立場から30人近くが登壇し、10〜20分の短い時間で持論を披露する(写真1)。
毎春にスイスで開催される「ジュネーブ・モーターショー」とのコラボイベントにも位置付けられているが、カーエレクトロニクスの話題は意外に少ない。特に2019年はMaaS、シェアエコノミー、スマートシティに関する発表が相次いだ。地球温暖化や都市部の人口集中といった社会課題の解決に向けた国際的な取り組みなども話題である。
Shift Automotiveに参加するには、IFAとは別に2日間で729ユーロ(8万7400円、1ユーロ120円換算)の参加費が必要だ。にも関わらず、急成長するモビリティ市場のヒントをつかもうとする人たちで両日とも、ほぼ満席だった。
以下では、MaaSとスマートシティに関するトークを取り上げて紹介する。
スマートな社会にシェアエコノミーは不可欠
ヨーロッパでは環境への配慮や渋滞解消のため、EVタイプの自動車や自転車、キックボードのシェアサービスがこの数年で増加している。そうした中、「快適な都市生活にはシェアエコノミーは不可欠」と語ったのは、自動車や航空宇宙産業のコンサルティング会社である印celeris technologiesの会長を務めるVenkat Sumantran博士だ。
Sumantran博士は、印TATAモーターズなど複数の自動車企業に勤めた経歴を持つ。「Mobility Transformations Towards A Sustainable City(持続可能な都市に向けたモビリティの変革)」と題したトークにおいて、「自動車は移動手段としてフレキシブルさに欠ける」とし、「公共交通やシェアバイクなどとシームレスに組み合わせることが都市空間の環境改善にもつながる」と説明した(写真2)。
Sumantran博士は、シェアエコノミーを実現するキーワードとして「Connected(接続性)」「Heterogeneous(異質性)」「Intelligent(機能性)」「Parsonalized(最適性)」を挙げる。そこでは、移動手段のほか、空間やアセットを共有するという発想が必要になる。「インフラとしての機能を高められるよう移動をデザインし、規制とポリシーを考える必要がある」(Sumantran博士)とする。
一方、「スマートシティの移動手段としては無人の自動運転車が有効。車両と併せて運用システムを設計することが重要だ」と指摘するのは、オランダの2getthereでCOO(最高実行責任者)を務めるRobbert Lohmann氏。2getthereは、無人電動移動システムと自動運転シャトルなどを開発している。
Lohmann氏は、「カーシェアが普及すれば、駐車場の変わりに公園が作れるなど都市の公共スペースが豊かになる。交通量が減れば交通事故や環境汚染が減るなど社会全体が変わる」と話す(写真)3。車両のデザインも、輸送量がどれだけ必要かで変わり、天気やイベントに合わせて運転量を変えられるシステムも必要になる。
こうしたシステムを開発するために2getthereは、オランダやテルアビブ、シンガポールでの実証実験を実施しているという。