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持続可能な快適さへシフトするヨーロッパのデジタルトレンド(後編)

ベルリンの「IFA 2019」に見るSociety 5.0時代のスマートライフ

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2019年11月26日

複数の移動手段を一括で利用できるサービスが増加

 ヨーロッパではMaaSのエコシステム構築の動きが、すでに始まっている。スペイン・バルセロナのスタートアップ企業IOMOBの取り組みが、その一例。さまざま移動手段を組み合わせ利用者ニーズに合わせた最適な移動を提案するサービスを、オープンソースソフトウェアとブロックチェーン技術を使って開発している。

 創業者のBoyd Cohen氏は「あらゆるモビリティはインターネットを通じてシームレスにつながり、予約も支払いも一括してできるようになる」とする。そうした環境を同社は「IoM:Interenet of Mobility」と呼ぶ(写真4)。

写真4:スタートアップ「IOMOB」は「IoM:Interenet of Mobility」の実現を目指す

 IOMOB がIoMで目指すのは、たとえば「ベルリンからバルセロナまで、きれいな景色を楽しみながら移動したい」といったニーズに応えられるMaaSのマーケットプレイスの構築だ。2019年10月には、ドイツ最大の鉄道会社であるDB(Deutsche Bahn:ドイツ鉄道)も参加するベータテストを開始した。

 ベルリン市交通局も、複数のMaaSを一括で利用できるサービスの開発に取り組んでいる。電車やバス、タクシーや各種ライドシェアなど複数のサービスへの会員登録が一度で済み、予約や料金の支払いも一括でできるスマートフォン用アプリケーション「Jelbi」のベータテストを実施中だ(写真5)。

写真5:ベルリン市交通局が開発する「Jelbi」の画面例

 ベルリンはヨーロッパの中でも公共交通が発達しており、地下鉄やバスの本数は比較的多く、利用できる時間も長い。一方で、自動車のシェアサービスが早くから提供され、シェアサイクルは2017年から、2019年6月からは電動キックボードのシェアサービスも始まった。いずれも複数のスタートアップ企業が参入している。

 ベルリン市交通局は、そうしたシェアサービスに対抗するのではなく、共存を目指す。Jelbiでは、リアルタイムな交通情報に基づき移動経路が検索できる。今後は、公共施設やレストラン、ショッピング施設も検索できるようにする。

コンパクトカーやトレーラーハウスのデザインも変わる

 前編で紹介したようにベルリン市は、スマートシティプロジェクト「Future Living Berlin」 を推進している。同計画に参画する独Daimlerは、完全EV化を発表したコンパクトカー「SMART」を、2018年にスタートしたシェアリングサービス「"ready to"」を通じて住民に提供する計画だ(写真6)。

写真6:ベルリン市のスマートシティプロジェクト「Future Living Berlin」に独Daimlerはコンパクトカー「SMART」で参画する

 テストサービスで得た意見を反映し、住民同士が共同オーナーとしてSmartをいつでも利用できるほか、場合によってはライドシェアにも対応する。住宅地内の駐車スペースを大幅に減らして公共スペースを増やし、目的地の駐車場を予約できるサービスも提供する。

 EV化したSMARTは、集合住宅に設置したソーラーパネルで充電する。SMARTの発売当初は「コンパクトカーなんて売れない」と批判されたそうだが、「Future Living Berlinのようなスマートでスモールな街にふさわしいモビリティだ」とSmart LabのDaniela Snyders氏は説明する。

 英国のデザイン会社Seymourpowellで自動車のプロダクトデザインを手掛けるRichard Seale氏は、自動運転で移動できるトレーラーハウスというアイデアを紹介した。

 Seale氏の設計では、自動運転により運転席が不要になるため広々した空間を確保。再生可能エネルギーによって燃料だけでなく水や電気も自給自足で賄う。住宅のほか、店舗やオフィス、診療所としても利用でき、災害時には避難所や仮設住宅としても使えるという(写真7)。

写真7:自給自足する自動運転式トレーラーハウスのイメージデザイン

 Shift Automotiveを通して感じたのは、前編で紹介した生活家電同様、MaaSにも環境や社会生活への配慮が求められ、ますますスマート化に向けて進化していくだろうということだ。利便性や合理化の追求以外にもデジタルテクノロジーを活用しようとする流れは日本も参考すべきである。2020年のIFAの発表にも引き続き注目していきたい。