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中堅・中小企業のDX、東商、山口FG、リンガーハットの取り組みと日本マイクロソフトの支援策強化

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2019年12月24日

デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みにおいては企業規模の大小は問われない。むしろ中堅・中小企業のほうがトップダウンによる目標完遂に向けた取り組みは容易な側面もある。東京商工会議所、山口フィナンシャルグループ(FG)、リンガーハットが、日本マイクロソフトが2019年12月16日に開いた説明会に登壇し、最新の取り組み状況を説明した。マイクロソフトは、中堅・中小企業に向けたDX支援策を強化する。

 中堅・中小企業が抱える経営課題は、「収益性の向上」や「人材採用」などが上位を占める(IT調査会社のITR調べ)。それらに、部門やチームの課題として「コミュニケーション活性化」「ノウハウ・経験の共有」が挙げられる。つまり中堅・中小企業は、人手不足のなかで生産性向上に取り組まざるを得ない。各社、具体的にどう取り組んでいるのだろうか。

東京商工会議所会員企業:8万社の半分はIT活用に遅れ

 地域を基盤に中堅・中小企業や個人事業主の経営を支援する商工会議所。そのなかで東京商工会議所(以下・東商)は、東京23区内の中堅・中小企業、約8万社を会員企業に抱えている。

 東商の理事・事務局長である小林 治彦 氏によれば、会員企業が抱える問題として最も大きいのは「人手不足」。会員への調査の結果「人員が不足している」と答えた企業は66.4%に上る。前年より割合が増えており「深刻な状況が続いている」(小林氏)との認識だ(写真1)。

写真1:東京商工会議所 理事・事務局長の小林治彦氏

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の前提とも言えるIT活用についても、「活用している」と回答した会員企業は全体の約半分で、「今後活用するつもり」を加えても、その傾向は近年、増えていない。「中小企業のIT活用は、いまだ発火点に達していない」と小林氏は指摘する。これには、「中小企業経営者の高齢化などによりITへの関心が低いことも影響している」(同)という。

 こうした問題を解決するために東商が2019年11月に開始したのが「『はじめてIT活用』1万社プロジェクト」である。ITに関心が低い60〜70代の経営者を東商の職員が3年間で1万社を目標に直接訪問し、IT活用についてアドバイスする。同プロジェクトにおいて東商は、日本マイクロソフトを含むIT関連企業8社と提携し、各社の優待サービスを利用しながらIT導入を促したい考えである。

山口FG:生き残りを賭けクラウドでシステムを統合

 山口フィナンシャルグループはこのほど、山口銀行と、もみじ銀行、北九州銀行のグループ3銀行の情報系と勘定系を、マイクロソフトのクラウドサービスMicrosoft Azureを使って統合した。パブリッククラウドによるデータ基盤の統合は、地銀としては、これが初めてという。

 IT統括部の高田 敏也 氏は、「従来、データ抽出に1〜2週間かかっていたものが、3行のデータ統合により、即時に分析できるようになった」とデータ基盤統合の効果を説明する(写真2)。今後は、顧客企業に向けた支援体制を強化し、地域産業の活性化につなげていきたいとする。

写真2:山口フィナンシャルグループ IT統括部の高田敏也氏

 そのための具体的なデジタル活用の例として、営業活動の効率化を挙げる。地銀の営業部員は顧客企業を社用車を使ってルート営業している。だが顧客が点在しているため走行距離が長く、より効率的な経路を選ぶ必要がある。そこで、顧客データとGPS(全地球測位システム)、地図データを連携させ、最適なルートと訪問順を選定できるシステムを構築し、営業効率の改善と営業費用の削減に生かす計画だ。

リンガーハット:店舗社員の事務作業ゼロを目指す

 リンガーハットはMicrosoft Azureによるバックオフィス業務の自動化に取り組んでいる。人手不足が常態化する中で、同社は数年前から「店舗社員の事務仕事をゼロにする」取り組みを進めてきた。経営管理グループ 情報システムチーム部長の是末 英一 氏は「それにより接客や調理に専念し、サービス向上を図り顧客満足度を高めるのが狙いだ」と話す(写真3)。

写真3:リンガーハット 経営管理グループ 情報システムチーム部長の是末英一氏

 たとえば店長の店舗事務では、毎日の売上目標の設定や食材の発注が大きな負担になる。特に発注は、「ベテランになれば売れ行きに合わせた“読み”ができるが、担当者によりバラツキがあり、発注のし過ぎや欠品による機会損失が発生していた」(是末氏)。これは会社全体でも同様で、「経営のベースになる売上高の予測や予算作成は経験と勘に頼っていた」(同)という。

 こうした無駄をなくすために目指すのが、データ駆動形の業務である。現在3つのデジタル変革を実行中だ。(1)データウェアハウスのクラウド移行、(2)マシンラーニング(機会学習)による売上予測システムの開発、(3)その予測に基づく自動発注システムの構築である。

 是末氏は、「すでに長崎ちゃんぽん業態におけるテストでは、予測データもほぼ満足できる結果が出ており、運用を始める段階にある。とんかつ業態は、長崎ちゃんぽんと同じ予測モデルの使用が難しかったため別途、開発している」と語る。