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Scrumの発案者が語る、組織のアジャイル化で失敗しない方法

「Scrum Interaction 2019」でのジェフ・サザーランド博士の基調講演

奥野 大児(ライター/ブロガー)
2020年1月15日

意思決定の速度を高め不要なものを作らない

 サザーランド博士は、アジャイルを実現するのは「意思決定の速さだ」と強調する。組織における意思決定にかかる時間が「平均1時間以上なら6割成功する。これが5時間になると18%に落ちる。アジャイル型とウォーターフォール型の差以上になる」からだ。

 Scrumにおいては、「多くの判断をチームに素早く落とし込み、10分以内で意思決定したい。プロダクトオーナーが優先順位を付けるのも1時間以内にしたい」(サザーランド博士)とも言う。

 冒頭で示したアジャイル改革がうまくいっていない原因は、ここにあるとする。プロダクトオーナーの役割は「キーを握る役員とミーティングを落ち、会社のステークホルダーと会い、バックログとの整合性を取り、会社全体に対しコミットメントすること」(サザーランド博士)である。

 早期の意思決定に向けては、リーダーシップのほかに、スクラムマスターとプロダクトオーナーのリーダーが必要になる。こうした考えから、Scrum@Scaleでは、少人数からなる「Scrumチーム」のほかに、複数のスクラムマスターで構成する「Scrum of Scrum(SoS)」と、SoSの最上位組織になる「Executive Action Team(EAT)」を置く。プロダクトオーナーも、「CPO(Chief Product Owner)」チームや「EMS(Executive Meta Scrum)」を構成する(写真4)。

写真4:アジャイルな組織のためには意思決定が重要

 意思決定の対象は、プロジェクトにおいて、すべてに優先順位をつけることである。サザーランド博士によれば、「優先順位が低い下位30%ほどには、やらなくて良いもの、それほど価値が高くないものもある」。あまり使わなかったり、ほとんど使わなかったりするものを作らないと決めるのがプロダクトオーナーの仕事である。

 作る対象が絞れれば「組織の半分が自由になり、より重要な製品/サービスに焦点を絞れる。そこにScrumを使うことで、より早いデリバリーに集中できる」とサザーランド博士は説明する。

 そのサザーランド博士が注目しているのがプロセス効率である。「人は1つのことに集中できないので効率が悪くなる」ためだ。たとえばインドのある会社でのプロジェクトでは、「プロセス効率をストーリーごとに算出し1つのことに集中して作業したところ、プロセス効率は3日で10%が80%にまで向上。4日目には2週間のスプリントが終了した」という。

投資家は見ている、早く終わることが大切だ

 アジャイル化を可能にするScrumだが、大手企業はどう導入していけばよいのか。大手はこれまでウォーターフォール型でプロジェクトを推進してきている。そのため、アジャイル型とウオーターフォール型の両方のチームを存続させ、両者をつなぐ役割を置くといったことを考える。

 だがサザーランド博士は、「両チームの間におく『トランスレーション(変換)レイヤー』が失敗の元になる」と継承をならす。同氏によれば変換レイヤーは、「MacのアプリケーションをWindowsで使おうとするようなもの。Mac上でWindowsソフトウェアを使えても逆はできない」。そのため「長期的にみると最終的に失敗する」(同)とする。

 さらにサザーランド博士は、「投資家は企業をよく見ている」と話す。同氏がある企業を訪問すれば、「投資家は、私が助言し、その会社の経営陣が意思決定したことを突き止めるため、翌日には、その会社の株価が上がる」のが、その根拠だ。

 たとえば、サザーランド博士が支援したソフトウェアベンダーの米Pegasystemsは、Scrumに沿ったマニュアルをCEOが承認し、経営からオペレーションまでのマニュアルが完成してから1年のうちに株価が4倍になったという。

 サザーランド博士は「投資家は見ている。マネジャーが仕事をしていれば株価は上がり、仕事をしていないと思われれば株価は下がる」とし、素早い意思決定の重要性を再度、強調した。

 ちなみにサザーランド博士は講演時間を少し残して基調講演を終えた。なぜなら「早く終わることが大切なのだ。これが皆さんへのメッセージだ」からだ。

写真5:「早く終わることが大切」とするサザーランド博士