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“ポストデジタル”時代に企業が問われるテクノロジーとのかかわり方

アクセンチュア『テクノロジービジョン2020』より

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年3月6日

信頼と体験のバランスが成功のカギ

 こうした前提の元、テクノロジービジョンでは5つのトレンドを掲げた。(1)体験の中の「私」、(2)AIと私、(3)スマート・シングスのジレンマ、(4)解き放たれるロボット、(5)イノベーションのDNAである(図1)。例年と異なり、テクノジーと人との関わりに焦点を当てた内容である。ドーアティ氏は「これら5つのトレンドを理解してビジネスに取り組むことが重要」とした。

図1:『アクセンチュア テクノロジービジョン2020』における5つのトレンド(アクセンチュア講演資料より)

 特に重要だとしたのが「顧客の体験向上にデジタルテクノロジーをどう使っていくか」(ドーアティ氏)である。「顧客体験の提供が企業競争の舞台になってきた」(同)からだ。

 たとえば、マリオットホテルがルームシェアサービスを開始し、Airbnbが逆にホテルを開業することを相次いで発表した。これをドーアティ氏は、「ホテル業と民泊業が互いの業態に進出するとしては見誤る。“宿泊”という体験を拡大するためにサービスを増やしていると見るべきだ」とする。

 ほかにも、米小売りチェーンのウォールグリーンが医療サービスをコンビニエンスストア内で展開したり、日本の楽天が携帯電話事業に乗り出したりするのも「幅広い顧客体験を提供するための動きだ。どの業界も、信頼を得ながら顧客のデータをうまく使うことで、より良い体験を提供しようとしている」(ドーアティ氏)ためだ。

 ドーアティ氏は「企業が消費者から信頼を得られれば、より深いサービスの提供が可能になる」ともいう。その具体例が米Amazon.comが始めた「アマゾンキー」。スマートキーと監視カメラを組み合わせ、配達員が顧客の自宅内にまで商品を届けるサービスである。

AIは「スモールデータ」で使う

 AIについても、「技術としての進化だけでなく、AIによって人間をどう強化していくかが重要だ」とドーアティ氏は説明する。労働人口が減少する日本にとっては特に重要なテーマの1つだと言えるが、ビジョン作成に先行して実施した今回の調査では、企業の78%が必要性を感じているにもかかわらず、実行している企業は23%にとどまっていた。この調査には、日本を含む全世界の企業の経営層を中心に6000人以上が回答している。

 AIと人の協働の成功事例として、日本航空(JAL)の窓口カウンターの支援システムを挙げる。窓口の担当者と搭乗客との会話をAIで分析し、その内容に合わせた情報を担当者の手元にあるタブレット端末にプッシュする。AIが顧客に直接情報を出すのでなく、窓口の担当者を助けながら、顧客により良いサービスを提供しようという仕組みである。

 AIに関するアクセンチュアの調査では、75%の企業が「AIをビジネス全体で活用しなければ業績が低下する可能性がある」と認識していた。半面、「実際にAIをスケールアップして利用できていない」と答えた企業も74%あった。

 この点についてドーアティ氏は、「AIといえば画像認識などビッグデータの分析に使うイメージが強い。だがビジネスでは小さなデータ、つまり『スモールデータ』のほうが利用価値は高い。他社の動向に追随するだけでなく、自社のデータに対しAIをどう使うかを改めて問うべきだ」と指摘する。

 そのうえで、量子コンピューティングや分散型台帳、バイオコンピューティングといった新しいテクノロジーに対しては、「常にアンテナを張り、イノベーションに継続的に取り組む組織を持つことが重要だ。それにより、これらが一般化する前に先取りできる」(ドーアティ氏)とした。