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“ポストデジタル”時代に企業が問われるテクノロジーとのかかわり方

アクセンチュア『テクノロジービジョン2020』より

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年3月6日

アクセンチュアは都内で『テクノロジービジョン2020』の説明会を2020年2月下旬に開催した。同ビジョン策定の総監修者であるアクセンチュアのCTO(最高技術責任者)兼CIO(最高イノベーション責任者)のポール・ドーアティ氏が、その骨子を説明した。グローバルではすでに“ポストデジタル”に向けた取り組みが始まっており「信頼」”がキーワードだという。

 アクセンチュアの『テクノロジービジョン2020』は、ビジネスに影響をもたらすテクノロジーの今後3年間のトレンドを予測した調査レポートだ。毎年発表されており、今回で20回目。2013年に「デジタル」というキーワードを初めて打ち出した以降、社会やビジネスを変えるキーワードとして、さまざまデジタルテクノロジー・トレンドを提起してきた。

 ただ2019年版では、AI(人工知能)や量子コンピューティング、分散型台帳(ブロックチェーン)などの新技術に触れながらも、それらがビジネスを一直線に進化させるという論調を変え、デジタル化が及ぼす種々の悪影響にも言及し、正しいデジタルの活用に向けた軌道修正を提言した。2020年版は、どうか。

“ポストデジタル”のビジョンの中心は「信頼」

 2020年版では、2019年の流れをさらに鮮明にし、タイトルも「ポストデジタル時代を生きる」とした。ポストデジタル時代について、同ビジョン策定の総監修者でアクセンチュアのCTO(最高技術責任者)兼CIO(最高イノベーション責任者)であるポール・ドーアティ氏は、こう説明する。

 「テクノロジーが企業にイノベーションを起こすという観点から、アクセンチュアもテクノロジーに非常に大きな投資をしてきた。だが今は、単に新しいテクノジーを実証実験し、上手くいった結果をビジネスに実装するだけでは済まない。ビジネスは、テクノロジー以上に進化すべである。デジタルの影響が、個人の生活や仕事に深く影響することを前提に、テクノロジーの使われ方を監視し管理することが重要だ」

写真1:アクセンチュアのCTO(最高技術責任者)兼CIO(最高イノベーション責任者)であるポール・ドーアティ氏

 デジタルテクノロジーは生活やビジネスに非常に深く浸透し、切り離せなくなっている。手のひらに乗る小型の高性能ドローンは20ドル以下で購入でき、AIは存在しない人間を画面内で自由に行動させたり、逆に「ディープフェイク」など実在の有名人に嘘の発言をさせたりが可能になっている。

 そのため、「個人が企業に預けた個人データが、どう扱われているのかに対する疑念が生じている。人々のニーズと企業のデジタル活用に方向性の不一致が生じている。こうした状態をドーアティ氏は「テッククラッシュ」と呼ぶ。

 テッククラッシュが社会にもたらした影響の一例としてドーアティ氏は、米サンフランシスコ市による画像の顔認識機能の使用を禁止する条例の制定を挙げる。

 「テクノロジーが身近になり、個人のすぐ近くで使われるようになった。個人の価値観に対し、企業が提供しようとしている価値をどれだけ摺り合わせられるのかを企業は意識する必要がある。企業のデジタル活用において“信頼”の問題が最も大きくなってきた」とドーアティ氏は指摘する。

 ただ、「これは同時に企業にとってのチャンスでもある」とドーアティ氏は語り、「信頼を得ることが企業の差別化要因だ。信頼はポストデジタル時代の“通貨”になる」と強調する。テッククラッシュを乗り越えて利用者の信頼を得ている企業は、そうでない企業に比べて2倍の速さで成長できているという調査結果もあるという。