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神戸市、食品ロス削減に向けフードシェアの「TABETE」と連携

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2020年3月30日

事業者の手数料は1件150円、小規模店舗の参加を容易に

 神戸市が連携するTABETEは、予約のキャンセルや天候の影響などによる営業時間の短縮など種々の要因により廃棄の対象になりそうな食品を値下げして一般消費者とマッチングするサービスである(写真3)。コークッキングはこれを「食品のレスキュー」と呼んでいる。

写真3:サービスの仕組みとメリット

 飲食店などの事業者は、その日の状況に合わせ、商品価格を250~680円の間に設定して対象の食品を出品する。一般消費者はスマートフォン用アプリケーションなどから商品を選びクレジットカードで決済する。その後、指定した引取予定時間に店頭に向かい商品を受け取る。

 事業者と一般消費者のサービス登録料は無料で、事業者は商品の引取り1点に付き150円の手数料を支払う。ただしクレジットカードの決済手数料はTABETEが負担するため、手数料の負担などからキャッシュレス導入が難しい小規模店舗でも参加が容易だとしている。

 TABETEのサービス開始は2018年4月。3年目を迎える2020年3月時点で登録店舗数は累計572店、登録ユーザー数は首都圏を中心に約22万3000人という。大手事業者の利用も増えており、新宿と小田原間の「特急ロマンスカー」の車内販売を手掛ける小田急レストランシステムや、東京農業大学の学生食堂が利用している。行政との連携も進めており、神戸市は、横浜市、金沢市、大阪市などに続く6例目になる。

 現時点で兵庫県内でTABETEを利用しているのは、今回アンバサダーとして参加するケルンのみ。川越CEOは、「年内に登録店舗数を50~80に増やしたい」と話す。

 利用率向上に向けては「フードシェアリングで大事なのはマッチング率の高さだ。事業者は出品時にTABETEを利用した理由を記載するが、それにどれだけ共感してもらえるかがポイントになる。金沢市では出品数の7割がレスキューされているという実績があり、その理由なども共有したい」(川越CEO)とする。

消費期限が短いパンは販売機会ロスが多い商品

 神戸市とTABETEの連携では、パン事業者がアンバサダーに就く。すでにTABETEに登録しているケルンのほか、イスズペーカリーと原田パンの3社である。(写真4)。

写真4:アンバサダーの3氏。右からケルン代表取締役の壷井 豪 氏、イスズベーカリー代表取締役の井筒 英治 氏、原田パン代表取締役の原田 富男 氏

 ケルン代表取締役の壷井 豪 氏は「パンは消費期限が短く、毎日焼いて、その日に売り切るのが理想だが、天候などに左右されやすく販売機会のロスが多い商品だ。日持ちする商品も開発しているが限界がある。材料や人件費が高騰する中で、持続可能な経営体質を構築するには、売る側と買う側の両方で食品ロス削減への意識を高める必要があると考えている」と話す。

 イスズペーカリー代表取締役の井筒 英治 氏は、「毎朝早くから粉をかぶりながらパンを焼いているが、売れ残ってゴミ箱に捨てられるのを見ると本当に心が痛む。廃棄を減らす方法は色々あるが、TABETEはお客さまに喜ばれて、店側の損が多少減らせるという点では、お客さまと社員、そして世間の三方よしの取り組みになるのではないか」と期待を述べた。

 原田パンは学校給食も手掛けている。新型コロナウィルス対策による休校で大量の食品廃棄が生じる問題に直面したばかりだ。同社代表取締役の原田 富男 氏は、「幸いにも今回の窮地は救われたが、そこには食べ物に対する“もったいない”という思いがあったからではないか。神戸は、おいしい食べものが色々あり、それが当たり前と思われているが、その地から、食品ロスを減らすきっかけができることに期待したい」と語る。

10月16日の「世界食料デー」に「SDGsセミナー」を共催予定

 神戸市とTBETEによる食品ロス削減の活動内容は、アンバサダーの活動のほかに大きく4つある。1つは神戸市が以前から実施している食品ロス削減協力店制度「goodbyefoodloss,KOBE」に登録する186店舗(2000年2月時点)とTABETEが連携し、飲食店などにおける食品ロス削減の取組みの相互推進と認知向上を目指す(写真5)。

写真5:食品ロス削減の取組みを相互に推進する。

 市民のエコアクションを促進するスマートフォンアプリ「イイことぐるぐる」との相乗効果も狙う。同アプリのポイント対象メニューにTABETEの利用を追加し、利用をうながす。

 国連が世界の食料問題を考える日として制定した「世界食料デー」である10月16日には「SDGsセミナー」を共催し、シェアリングエコノミーについてのリテラシー向上を図る。

 さらに、シェアリングエコノミーをテーマにしたビジネスコンテストを市内の大学等として協力して開催するなど、神戸市が数年前から実施している起業支援の取り組みとも連携する。各種セミナーやビジネスコンテストなどにはアンバサダーも協力する予定だ。

 フードシェアリングに向けた神戸市と事業者の動きが今後、市民を巻き込みながら、どのように浸透し広がっていくのかに注目したい。