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小売業のデジタル化の進展で実店舗への期待が高まる
米ゼブラの『小売業界のテクノロジー改革に関するグローバル調査』から
実店舗で購入しない最大の理由は「品切れ」
しかし手放しでは喜べない厳しい現実もある。実店舗を何も買わずに出てしまう理由の第1位は「品切れ」だった(図5)。実店舗を利用するメリットが「その場で持ち帰れる」だったことを考えれば当然の結果だろう。
この傾向は、若い世代ほど高まる。買わずに退店する理由の2位以下が「品揃えが好みに合わない」「競合店のほうが安い」「オンラインのほうが安い」「レジ待ちの時間がかかる」であることを考えれば、オンラインでの商品検索などに長けた若年層のほうが、より多くの商品・価格情報を持っており「品切れ」には、より敏感だと言える。
品切れの、もう1つの問題は、消費者の49%が「品切れ時の代替手段に満足していない」ということだ(図6)。店舗側は、代替手段として「自宅への配送」「後日購入時のディスカウントの提供」「在庫のある他店舗の案内」などの実行に力を入れているが、それらでは不十分なようだ。
またグローバルには大きな課題になっているのが返品である。「返品能力が高い店舗が高く評価される」(古川氏)ことから、小売業幹部の46%が「2025年までに返品管理システムをアップグレードする計画があるか、すでに実行している」とした。
具体策としては「オンライン/モバイルで購入した商品を店舗で返品」(77%)、「返品送料の無料化」(75%)「専門の物流業者の返品センターで受け付ける」(71%)などが上位に挙がる。
こうした背景には、eコマースにける返品の自由度が高まっていることがある。実際、オンラインで購入された商品の約20%が返品されるのに対し、実店舗では9%に留まっている。ミレニアム世代ほど返品への不満も高い。日本でも今後、eコマースでの返品が定着してくれば、海外同様の返品ニーズが高まってくるかもしれない。
店舗スタッフの育成を支援するテクノロジーが重要に
上記のような結果が示しているのは「オンラインと実店舗のショッピング体験を同水準にする必要がある」ということだ。実店舗の「商品をその場で持ち帰れる」というメリットをオンラインと同等の価格で提供できることが重要になる。加えて、世代間でニーズが異なる顧客サービスを提供できる店舗スタッフを育成する必要もある。
店舗スタッフの育成においても最先端テクノロジーの導入が期待されている。「実店舗でのモバイルテクノロジー活⽤によって、買い物客のショッピング体験が向上する」とする割合は、顧客が58%なのに対し、店員のそれは73%に上る(図7)。その背景には、店員の48%が店内でモバイル端末を利用することで「正しい値段の検索」や「顧客からの質問への回答」ができるようになったとする経験がある。
もともと海外ではスタッフが常に入れ替わるのを前提に店舗運営が設計されている。マニュアルは、トレーニングが不十分なスタッフでも一定の対応ができるための仕組みの代表例だ。それを最近は「テクノロジーが支援する形になってきている」(古川氏)。
それだけに日本の小売業にとっては、「店舗スタッフの育成は、これからの大きな課題になる」と古川氏はみる。「これまで日本は、店舗スタッフの経験が豊富で業務経験が長いことが普通だった。今後は働き手不足から店舗スタッフの流動化・多様化が進むと予想される」(古川氏)からだ。
小売業のデジタル化に向けては、無人店舗など実店舗そのもののデジタル化だけでなく、店舗スタッフのスキル向上を支援するテクノロジーの活用も問われている。