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テレワークは一時的な業務ではない、VDI環境にGPUが必要な理由

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年4月21日

新型コロナウイルス感染症の拡大により、緊急事態宣言が全国に発令された。政府は企業に「社員の8割を在宅させる」ことを求め、多くの企業が在宅勤務を余儀なくされている。一方で、強制的なテレワーク状況の発生で、在宅勤務だけでは事業継続を十分に対応できない企業も続出している。テレワークに向けて、さまざまな環境が提案されている。そうした中、GPU(Graphics Processing Unit)ベンダーである米NVIDIA日本法人のエンタープライズ事業部 GRIDビジネス開発マネジャー 後藤 祐一郎 氏が、テレワークの課題と解決策を説明した。

 新型コロナウイルス対策としての突然の自粛要請において、在宅で対応できる業務とできない業務が出社の有無を決める境界線になっている。巷では「ハンコ」のために出社する従業員の問題が取り沙汰されているが、出社しなければいけない理由はそれだけではない。会社に行かなければ事実上不可能な業務はさまざま存在する。

 ここ数年、企業は働き方改革の指針のもと、テレワークへの取り組みを進めてきたはずだ。だが、総務省の2018年調査では、テレワーク導入企業は19.1%、導入予定を含めても26.3%と、4分の1にとどまっていた。テレワークを利用する従業員の割合を見ても、半数が5%未満と答えており、ほとんど利用されていない状況だった。

「テレワークは一時的な業務」との認識が対応の遅れに

 テレワークの利用はなぜ進まなかったのか。NVIDIA(エヌビディア)合同会社エンタープライズ事業部 GRIDビジネス開発マネジャーの後藤 祐一郎 氏は、その理由を、こう説明する。

 「多くの企業では、テレワークを育児のための在宅勤務や、災害時の通勤困難者対策など、社員の一時的な業務だと認識していた。そのため最低限のスペックで環境を提供すれば良いと考えており、長期的に通常業務のすべてをこなせる態勢にはなっていない」

 先の総務省の調査では、テレワークが進まない理由として「テレワークに適した業務がない」と答えた企業が73.1%という結果も出ている。これは、「テレワークは遅い環境、普段と異なる環境のため、『普段通りの仕事は実現できない』という認識が固定化してしまっているからだ」と後藤氏は指摘する。

 「仮にテレワーク環境が用意されていても、それではまかなえない業務が多く、無理矢理にでも出社しなければならない。同様に、(データサイズが大きい)ワークステーションの利用者は出社を余儀なくされている。感染リスクが高まるなか、すべての業務を視野に入れたテレワーク対応は、企業にとって急務である。事態が終息した後も、テレワークの利用を飛躍的に高めるはずだ」(後藤氏)という。

仮想GPUでVDI環境を改善

 ではテレワークを、一部の人のための一時的な存在から、全社員のための仕組みに変えるには何が必要なのだろうか。

 一般にテレワークに必要なシステムは、ビジネスチャット、Web会議システム、オンラインストレージ、ドキュメントの電子署名などと言われている。しかし現実には、これらが使えるだけでは不十分。通常業務を進めるうえではオフィスのデスクトップで利用している業務アプリケーションへのアクセスや、企業の内部データへのアクセスが不可欠だ。

 そのために利用するのが、オフィスのデスクトップ画面を遠隔で利用する「仮想デスクトップ(VDI)」環境である。同技術は古くから利用されている。

 だが後藤氏は、「従来のVDIはレスポンスが悪く、『使いたくない環境』という認識が根強い。そのため大半の作業を物理的なPCの中で済ませることになり、オフィス環境とは異なってしまう」と話す。そもそも企業側も、VDI環境を全社員に提供することを想定していないため、アクセス数が限られている場合もある(図1)。

図1:VDI(仮想デスクトップ)に対する利用者の声(出所:NVIDIA)

 在宅勤務の長期化が予想されるなか、すべてのオフィスワーカーがテレワークができるVDI環境としてNVIDIAが推進するのが「仮想GPU(vGPU)」の導入だ。仮想デスクトップ環境に仮想GPU管理ソフト「NVIDIA vGPU manager」を組み込むことで、ワークステーション/PC環境を仮想化する。

 vGPUは、2013年から企業向けに提供している技術。当初は製造業のCAD(コンピューターによる設計)業務など、高い処理能力が必要な作業環境をVDIで構築・管理するために使われた。その後、教育や研究分野やサービス業に利用が拡大し、性能・機能の強化を図ってきた。

 GPUというと、CADやグラフィックソフトを使った業務や動画編集、あるいは最近ではAI(人工知能)の開発・実行環境など、処理性能を求める業務での利用イメージが強い。これに対し後藤氏は、「昨今のVDI環境では、通常の作業でもCPU性能とともにGPUの能力が求められている」とする。

 「たとえばWindows 10のCPU要件は同7と比べて50%増加している。Webブラウザーの利用やPDFファイルの閲覧といった通常業務で使うアプリケーションも高いコンピューティングパワーが求められる。一部のグラフィックソフトウェアはGPUがなければ機能しない」(同)ともいう。