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サブスク事業を成長に導く3つのベストプラクティス、米Zuoraが自社サブスク基盤の利用実態調査から抽出

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2020年5月8日

サブスクで顧客の選択肢を増やす

 では成長企業は、サブスク事業をどのように展開しているのだろうか。今回の分析からは3つのベストプラクティスが浮かんできたという。(1)成長時の優先順位付け、(2)顧客ニーズに合わせたサブスクの柔軟な変更、(3)従量課金の採用である。

成長時の優先順位付け

 「ビジネスモデルや成長段階に適した分野に焦点を当てること」(ゴールド氏)という。B2B(企業間)の企業とB2C(企業対個人)企業では「成長の道のりが異なる」(同)からだ。

 具体的には、B2B企業は、「ユーザー数を伸ばすこととアップセルによるARPA(顧客当たりの平均収益)の増加のバランスの取ること」(ゴールド氏)が、B2C企業は「ユーザー数を伸ばしていくこと」(同)が、それぞれの収益成長率につながる。

 たとえばB2B企業では、年間収益が500万ドル以下の小規模企業は、500万ドル以上の中規模や大規模の企業より成長が鈍い。これは「小規模企業は既存顧客のアップセルに依存しているが、収益が大きくなるとアップセルを維持しながら新規顧客を獲得できている(ゴールド氏)ためである。

 B2C企業においても、収益規模が大きくなるにつれ成長が加速しているという。

顧客ニーズに合わせたサブスクの柔軟な変更

 サブスクリプションの変更パターンについてゴールド氏は5種類があるとする。サービスやオプションに対する(1)変更(単価変更、数量追加など)、(2)追加、(3)削除、(4)契約条件の変更、(5)一時停止と再開だ。最近増えているのが(5)一時停止と再開のパターンだという。

 これら5つのパターンをどれだけ柔軟に変更できるかが成長を左右する。「最も柔軟に変更できる企業は、ほとんどできない、あるいは全くできない企業の約3倍もの年間成長率を示している」(ゴールド氏)。

 この傾向はARPA/ARPU(顧客当たり売上高)の成長率においても同様で、最も変更ができる企業の成長率が高く、チャーンレート(年間解約率)も低くなる。「顧客自身が変更を加えられることが顧客の生涯価値を向上させることにつながっている」とゴールド氏は分析する。

従量課金の採用

 価格設定に従量課金の要素を持たせることで収益の増加が期待できるという。従量課金は「アップセルを最大化し、柔軟な価格設定で解約を減らすことが目的」(ゴールド氏)だからだ。

 たとえば、サービスを積極的に利用する顧客は、契約する従量のギリギリまでサービスを使おうとするため、「そのタイミングはアップグレードを促す良い機会になる」(ゴールド氏)。年間解約率も「従量課金を導入している企業は、一切従量課金を導入していない企業の5分の1」(同)だった(図4)。

図4:従量課金はアップセルと解約防止に有効(出所:米Zuora)

 ただし最も年間収益が伸びたのは、課金体系における従量課金の割合が25%以下の企業である(図5)。「リカーリングレベニュー(繰延収益)をケーキの本体だとすれば従量課金は、その上に乗っている飾りにすぎない」とゴールド氏は話す。

図5:従量課金は全体の25%以下に抑えたい(出所:米Zuora)

 またB2C企業においては「従量課金を取り入れるメリットはやや小さい」(ゴールド氏)ともいう。従量課金を25%以上組み込んだ企業の成長率は、一切組み込んでいない企業より低かった。ゴールド氏は「B2Cでは顧客がシンプルな価格プランを求めているからだろう。B2C企業における従量課金は『超過量課金モデル』などわかりやすい仕組みになっている」とみている。

従量課金の6つのモデル

 ちなみに従量課金の価格モデルには以下の6種類があるとZuora Japanシニアカスタマーサクセスマネージャの平井 輝恵 氏は説明する。

単位当たり課金モデル

 6つの従量課金モデル中、最も基本的なモデル。ユーザー数や従業員数、ギガバイト数などの単位に対して単価を設定する。このモデルを早々に採用した企業が米Salesforce.comだという。

超過量課金モデル

 上限を設けたプランを用意し実際の利用量が契約している上限を超えた際に課金するモデルである。携帯電話の契約などにおける、2ギガ、4ギガ、8ギガといったデータプランが一例だ。

ボリューム課金モデル

 使用するボリュームの合計によって階段式の価格を設定するモデル。「SaaS(Software as a Service)企業による採用例が多いが、最近は他業界にも広がっている」(平井氏)。たとえば米フォードのサブスクリプションサービスがボリューム課金を採用しており、「走れば走るほどお得な価格が提供できるモデル」(同)になっている。

ティア課金モデル

 ボリューム課金と似ているが、階層ごとに決められた課金額の合計が課金額になるモデルである。平井氏は「段階的な利用に応じて値引きを提示できるため、特にB2B企業が有効に使えるモデルだ」と言う。たとえば、1G〜250GバイトまではGバイト当たりの料金を0.2ドル、251G〜750Gバイトは同0.1ドル、751G〜5000Gバイトまでは0.05ドルという課金体系において、1000Gバイトを使用した顧客への課金額を「250 × 0.02 + 500 × 0.1 + 250 × 0.05」で算出する(課金額は112.50ドル)。

超過量課金付きティア課金モデル

 ティア課金モデルを基本に、最後の階層を超えた場合に使用量に応じた課金を用意しているモデルである。

マルチ属性課金モデル

 複数指標のマトリックスに基づいて課金額を決定するモデル。カーシェアサービスを展開する米ジップカーの課金モデルがその一例で、基本的には時間単位の課金だが、車種や地域、シーズン、時間帯によって価格を変動させている。