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ロボティクスは自己拡張のための技術、パナソニック「Aug Lab」がプロトタイプで可視化する“ウェルビーイング”

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2020年5月8日

パナソニックは、ロボティクス技術を用いた自己拡張(Augmentation)の研究開発拠点「Aug Lab」の活動成果を発表するセミナーを2020年4月23日、オンラインで開催した。“ウェルビーイング(Well-being)”な社会の実現に向けて開発されてきたというAug Labのプロトタイプには、ポストコロナ時代にも受け入れられる可能性が感じられた。

 パナソニックの「Aug Lab」は、人や暮らしが、より豊かになる“ウェルビーイング(Well-being)”な社会の実現を目指す研究開発拠点である。先端テクノロジーを用いた新しい価値として「自己拡張(Augmentation)」を掲げ、経済合理性とQoL(クオリティ・オブ・ライフ)の両立を図る。同社のロボット開発を担うロボティクス推進室が2019年4月に設立した。

 “ウェルビーイング”は、1946年の世界保健機関(WHO)憲章の前文では「健康とは、単に病気や病弱ではないということではなく、肉体的にも精神的にも社会的にも全てが満たされた状態(ウェルビーイング)にあること」と定義されている。「良い状態」「幸福」とも訳される。

 Aug Labが掲げる自己拡張についてAug Labリーダーの安藤 健 氏は「フィジカルな面に加え、『人はどのようなことに心が動き、どのような状態になるとウェルビーイングになるのか』といった心の内面にも踏み込んでいる」と説明する(写真1)。

写真1:Aug Lab が掲げる自己拡張には“フィジカル”と“感性”の側面がある

 自己拡張というテーマは、世界的にも萌芽的研究であり学際的な領域でもある。その複雑さから、Aug Labでも、パナソニックのエンジニアだけでなく、クリエイターやデザイナー、社会科学者など外部の専門家らとも連携するオープンイノベーションなスタイルでの研究開発に取り組んでいる。

 初年度は「ヒトの精神面・社会面での拡張」をテーマに複数のプロジェクトを実施してきた。英国RCA(Royal College of Art:英国王立芸術学院)とのワークショップや、提携先の公募で採択された慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科との「Embodied Media Project」、クリエイティブカンパニーのコネルらとのプロジェクトなどだ。

700以上のアイデアから作りあげた3つのプロトタイプ

 700以上のアイデアから20の一次試作を行い、最終的に3つのプロトタイプを作り上げた。(1)「TOU(ゆらぎかべ)」、(2)「babypapa(ベビパパ)」(3)「Cherephon(チアホン)」である。それらは2020年3月、米テキサス州・オースティンで開催される国際フェスティバル「SXSW(South by South West/サウス・バイ・サウスウエスト)」に出展する予定だった。

「TOU(ゆらぎかべ)」

 屋内でランダムな風を再現することで空間内に自然のゆらぎをもたらす家電である(写真2)。共同研究パートナーであるコネルとともに3〜4カ月で製作した。

写真2:コネルと共同製作された「TOU(ゆらぎかべ)」

 TOUは、「脳をリラックスさせることでアイデアを創出する」という仮説を元に作られている。壁掛けの絵や壁紙、柱のように縦に並べられる。デジタルデバイスに囲まれた空間のほか、将来的には宇宙で使用することも想定されている。プロトタイプは、コネルが日本橋に持つ地下実験場に設置されている。

「babypapa(ベビパパ)」

 子どもの成長を見守りたいという親の目線で開発されたコミュニケーションロボット(写真3)。大きさが異なる3体のロボットが独自の言葉や動きで連携しながら子どもと一緒に楽しむ様子を親に伝えられる。パナソニックのデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」と岐阜県のITベンチャーGOCOO(ゴッコ)との連携で作られた。

写真3:3体のコミュニケーションロボットで子どもの成長を記録する「babypapa(ベビパパ)」

「Cherephon(チアホン)」

 アプリを介して親機と子機によるリアルタイム再生ができるレシーバー(写真4)。会津若松で開かれた社内外の企業が参加するワークショップで生まれたアイデアに基づいている。距離を超えて遠くにいる相手を応援することを目的に、腕に装着するデバイスは、声だけでなく加速度センサーや振動で熱狂の度合いを届けられる。スポーツチームのサポーターらへの配布などを検討している。

写真4:「Cherephon(チアホン)」は距離を超えて遠くにいる相手を応援するデバイス