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新型コロナ対策で生きたシミュレーション技術、仏ダッソー・システムズが医療や建設に踏み出す理由

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年6月15日

3D(3次元)CAD(コンピューターによる設計)やPLM(製品ライフサイクル管理)といった製造業向けソフトウェアなどを開発・販売する仏ダッソー・システムズが、医療や建設、都市インフラといった分野への事業拡大を図っている。同社日本法人の代表取締役社長であるフィリップ・ゴドブ氏は、2020年5月28日に開いたオンライン記者説明会において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策でも、同社技術が活用されているとする。各領域にまたがる共通のキーワードは「シミュレーション」だ。

 仏ダッソー・システムズは、3D(3次元)CAD(コンピューターによる設計)ソフトウェア「CATIA」などを開発・販売するソフトウェアベンダー。製造業における製品の設計・開発を主な対象業務にしてきた。

 だが昨今は、市場の変化を追従する「コンカレント・エンジニアリング」に対応するための情報共有基盤「3D EXPERIENCE Platform」の提案・提供に力を入れている。開発部門だけでなく、営業やマーケティング部門なども協調することで複数の開発案件を並行して進めるためのビジネスプラット基盤の実現を目指す。

 同社日本法人の代表取締役社長であるフィリップ・ゴドブ氏は3D EXPERIENCE Platformについて、「対象は製造業に限らない。今後はライフサイエンスや都市インフラ、建設などの分野にも広く拡大していく」と力を込める(写真1)。

写真1:仏ダッソー・システムズ日本法人の代表取締役社長であるフィリップ・ゴドブ氏

製造業で先行したシミュレーションを他分野に展開

 いずれの領域も、実世界を仮想世界に再現する「デジタルツイン」が重要なテーマになっている。これらの分野にダッソーが提案するのは、「製造業で実績を重ねてきた数々のシミュレーション技術」(ゴドブ氏)だ。

 たとえば医療分野では、人体のデジタルツインを作成するために、医療機器をウェアラブルにする動きが進む。だが「ウェアラブルな医療機器が人体に、どのような影響を与えるかを事前にシミュレーションする必要がある」(ゴドブ氏)とする。都市インフラにおいても、「交通のシミュレーションなどにも需要がある」(同)という。こうした活用を同社は「ヒューマン・インダストリー・エクスペリエンス」と呼ぶ。

図1:シミュレーションをライフサイエンスや都市インフラに適用する

 こうしたデジタルツインやシミュレーションの技術が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に向けた世界各国での感染拡大防止策にも生かされている。

 ゴドブ氏は、「政府や専門機関が多くの決断を下している。それら決定事項は自国のみならず極めて広い範囲に影響を及ぼしている。だが、下された決定が実際に正しいかどうかは事前にはわからない。ここにデジタルツインの技術を適用すれば、起こりえる影響を事前に確認できる」と話す。

 「COVID-19対策では、当社が持つ全領域の技術が使われていると言える。たとえば流体解析技術は、換気とウイルス飛沫拡散の関係を調べるシミュレーションに利用され、院内感染の防止策作りに役立っている。2019年に買収したライフサイエンス企業のメディデータが持つ臨床試験技術は、COVID-19の臨床試験の6割以上で使われている」(ゴドブ氏)

 ほかにも、同社の科学データ分析基盤「BIOVIA」は、製薬企業などでCOVID-19の薬剤候補の特定に使われている。