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血中タンパク質から健康状態と疾病リスクを可視化するヘルスケア企業、NECソリューションイノベータが設立

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2020年7月17日

(1)疾病予測アルゴリズムの共同研究

 疾病予測アルゴリズムの共同研究は、両社が10年前から共同開発を進めてきたもの。SOMAscanで取得した大量データを、NECグループのIT/AI技術で解析・可視化・シミュレーションできるようにしてきた。検査精度は初回検査が70%以上で、回数を増やすと精度は高まっていく。

 日本人向けの疾病予測アルゴリズムの確立においては、国内の大学に所属するアドバイザーからのコホート研究(疾病の要因と発症の関連を複数の対象を長期間観察する調査方法)のデータ提供を受けている。血中タンパク質の解析結果とアルゴリズムを組み合わせることで、日本人ならではの疾病リスクの分析/シミュレーションを可能にし、個々への改善提案も実現する。

 アドバイザーの1人である京都大学ゲノム疫学 教授の松田 文彦 氏は、「多くの病気は、遺伝と環境が相互作用することで発症し進行するため、常に変化する環境の把握には継続的なモニタリングが必要になる。血液内にある、さまざまな物質の変化から発症を予知する研究に取り組んでいるが、フォーネスライフの技術と解析力は、予防医療における強力なツールになる」と話す。

(2)健康状態の見える化/疾病リスク予測サービスの提供

 健康状態の見える化/疾病リスク予測サービスでは、健診結果を従来のように数値で示すだけでなく、視覚的に表示して行動変容を促すレポートの提供を検討する(図3)。たとえば測定から4年以内に疾病にかかるリスクや、疾病がある場合の再発リスクを予測したり、現状のリスクがどのような状態にあるかを可視化したりする。

図3:開発中のレポートの例

(3)健康支援サービスの開発

 健康支援サービスとしては、食生活や運動などによる改善方法の個別提案や、それらを実行した場合の結果を可視化するサービスの提供も予定する。

 そこでは消費関連企業などとの共創事業を事業の柱にする。たとえば、フィットネス事業者とは解析結果に基づくパーソナルなトレーニングを開発し、観光事業者とは健康ツーリズムを企画する。食品・美容関連企業であれば、製品開発など既存事業の品質向上や新規ビジネスの開拓支援などを予定する。

提携医療機関を通じて2020年10月から開始

 疾病リスク予測サービスは、提携する医療機関を通じて2020年10月からの開始を予定する。人間ドッグの延長にある自由診療として、医療機関で採血した血液をフォーネスライフが検査し、結果や対応方法は再び医療機関を通じて提案する(図4)。

図4:疾病リスク予測サービスの提供フロー

 事業開始から3年は主に、生活習慣病のリスクが高く、病気や入院による損失が大きい45歳以上の世代をターゲットにする。対象になる疾病は、循環器疾患から始め、2021年に糖尿病や肝疾患、肺疾患へ、2022年に認知症へと段階的に増やす。2023年に50以上の疾病を目標にする(図5)。

図5:2023年には50以上の疾病への対応を目指す

 サービスの価格は、自由診療のため医師が決められるが、数万程度を想定する。将来的には、検知できる疾病が増えても同一価格で提供するサブスクリプションモデルも検討している。一般健診への組み込みで10年後に300億円超の売り上げを目指す。並行して、パートナー企業との合弁やヘルスケア市場が伸びているアジアの中でも主に東南アジアをターゲットに展開し1000億円超を狙う。

 長寿国として世界から注目されてきた日本。今度は、血中タンパク質測定というユニークな方法で予防医療に取り組み、健康寿命を延ばした最初の国として、再び世界から注目されるようになるかもしれない。