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AI活用で米国に遅れる日本企業、求められるマインドシフト
AI基盤は自社で構築すべき
上記の課題を踏まえボンデュエル氏は、日本企業が今後、AI活用に向けて取り組むべき3つのポイントを挙げる(図3)。
1つは、AI活用の目標の明確化。2つ目は、その目標達成に向けた各種基盤の構築だ。日本企業はAIを個別に活用した事例が多く見られるが、横展開やスケールアップがうまくいっていない。その問題を解消するためには「AI活用基盤の整備が重要だ」(ボンデュエル氏)という。
そして3つ目が、AI活用の加速化と利用範囲の拡大だ。「AIについての取り組みの現状を把握することと、AI活用の目的を明確にすることがまず必要だ。何をしたいかと、何ができるかを理解し、それに基づいてロードマップを策定する。そして、ロードマップの進捗を確認していくことで、段階的なアウトプットを得られる」とボンデュエル氏は指摘する。
加えてボンデュエル氏は、AI活用の基盤づくりと運用プロセスは社内で行うべきだと主張する。
「かつてはデータを外部にアウトソースすることも選択肢だった。だが今は、それに意味はない。アウトソーサーは『自分たちの仕組みが効果的で、投資も少なく済む』と説得してくるかもしれない。だが、彼らは顧客が持つデータの意味を知らない。特定のデータに基づいた基盤を作るわけではなく、汎用的な基盤を持ってくる。データは企業にとっての資産なだけに、ハードな仕事であっても、自分たちで分析する能力を構築することをお勧めする」
企業の課題を抽出し具体的な取り組みをAI Labが支援
こうした日本企業のAIに対する課題解決を支援するために、PwCジャパンが2019年に設立したのが「AI Lab」である。現在AI Labのリーダーも務める中山氏は、AI Labの役割を次のように語る。
「PwCジャパングループは、会計、監査、コンサルティングなど各種のプロフェッショナルサービスを提供している。各サービスのラインが交差しながら持てる力を集結し、AIによって生まれる付加価値を提供するためのチームがAI Labだ」
同社が行ったメガトレンドの調査では、コロナ禍でデータやAIの活用は重要度を増すと予測している。だが前述の通り、多くの日本企業はまだAIを本格的に活用する段階には至っていない。そのため、今後の導入の取り組みが、なおさら重要度を増してくる。AI Labは、そうした企業の課題を抽出し、具体的な取り組みへの移行を支援する。
「特に、顧客や取引先、従業員など、人との関係をより良いものにするためにAIの活用が求められる。たとえば、顧客の価値観の変化をいち早く捉えるために、SNS(Social Networking Service)の分析やデジタルコミュニケーションの活用が必要になる。
従業員との関係は、リモートによる不安を取り除き、パフォーマンスをどうやって高めていくのか。取引先との関係では、先の見えない状況で需要がどう変化するかを予測し、それをサプライチェーン全体で共有する必要が出てきた」(中山氏)という。
AI Labの具体的な取り組みに、AI活用の導入事例のデータベース化がある。国内外1400を超える事例を登録し、業界・業務別に整理し顧客に提供している(図4)。
取り組みの継続が重要
AI活用のための基盤整備では、日本企業はAIの実験的な取り組みが多く、まだ本番でフルに使われたときのリスクが顕在化していないと思われる。そこでAI Labが、今後想定されるリスクのコントロールに関するノウハウを提供していく。
企業が直面するAIのリスクは、利用分野やアプリケーションによって全く異なる。たとえばチャットボットで薬の副作用を教えるサービスと、お勧めのレストランを教えるサービスとでは、社会的なインパクトが大きく異なる。それぞれ、自由度とリスクのバランスをとる必要があるという。
中山氏は、「AI Labは先端技術の導入だけでなく、PwCグループが持つガバナンス、リスクコントロールの能力を生かしながらAIの実践的な利用を支援する。コロナをピンチでなくチャンスにできるよう、企業とともに新しい価値を生み出したい」と語る。
日本企業のAI活用は現状、海外の先進国よりも遅れているようだ。だが大事なのは「取り組みを続けていくことだ」とボンデュエル氏と中山氏は口を揃える。「遅れているから、難しいからとあきらめず、継続し、利用範囲を拡大して、スケールさせることが重要だ」(両氏)とした。