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昭和大とフィリップスが共同研究する遠隔ICUプログラム、COVID-19を背景に日本市場への導入は進むか?

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2020年9月9日

昭和大学は2018年から、集中治療患者の診断・治療を遠隔から支援する仕組みである「eICU」の実運用し、その検証に開発元の蘭フィリップス日本法人と共同で取り組んできた。その効果が見えてきたことからフィリップスは、日本市場での本格導入を開始すると2020年9月1日に発表した。新型コロナへの対応を含め、救急医療の現場を対象にした支援策の必要性は従来に増して高まっている。デジタル技術を使った遠隔支援の仕組みは日本の医療現場に広がっていくのだろうか。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応が続く中、感染予防はもとより、急変する患者への対応が課題になっている。COVID-19以前から日本では、重症化した患者を治療する集中治療室(ICU)が不足しており、専門医も少ないことが問題視されてきた。

 そうしたICUの状況を改善するため、昭和大学は2016年から「遠隔集中治療患者管理プログラム(以下、eICU)」の研究に、蘭フィリップスの日本法人であるフィリップス・ジャパン(以下、フィリップス)と共同で取り組んできた。

 eICUは、短時間に的確な判断が求められるICUの現場を、ITを使って支援するための仕組みだ。複数の病院や病棟にいるICU患者の状態や生体情報、検査結果情報などをネットワークを通じて支援センターに集約し、センターに詰める専門医が多忙な集中治療の現場をサポートする。

2020年7月には薬機法認証を取得

 その昭和大学は2018年4月、アジア初となるeICUの実運用を開始した(関連記事)。9つある病院やクリニック、および地域の医療機関などをネットワークで結ぶ「Showa eConnect」構想の一環で、eICUはその中核となるプログラムの位置付けだ。2つの病院を対象にした運用により、その実用性が確認され、2020年7月には薬機法認証を取得した。

 昭和大学病院 集中治療科・診療科長の小谷 透 氏は、「5分で現場の困りごとを解決できるのがeCIUの強み。問題の半分が解決でき、細かい介入の積み重ねなどにより現場の教育にもつながっている。COVID-19の感染が拡大してから重症患者の対応にシフトし、ICUを増床したり熟練看護師を集約したりしているが、eCIUを導入していたおかげで上手く対応できた」と説明する(写真1)。

写真1:昭和大学病院 集中治療科・診療科長 小谷 透氏

 昭和大のeICUは、昭和大学病院(東京都品川区)内に支援センターを設け、専門医と、看護師、医師事務作業補助者の各1名によるチームが常駐し、遠隔地の2カ所の病院にある計50床のICUをモニタリングしている。

 昭和大学病院内では現在、中等症と重症患者の受け入れに合わせて、ICUを14から28に増床。COVID-19の重症患者の治療に必要なECMO(体外式膜型人工肺)は3例まで同時対応できるようになっている。

 eICUの心臓部となるソフトウェアが「eCareManager」だ。患者の電子カルテや生体情報といったデータを集約し、臨床現場の意思決定を支援する種々のツールを使って治療や判断に必要なデータを解析したり、退室の予測値を算出したりする。

 支援センターに設置された6つのモニター(システム的には8台までを設置可能)では、カルテや患者の状態をリアルタイムで把握し、現場からの要望に応じてサポートしたり、注意喚起を出したりができる(写真2)。

写真2:支援センターからは50の病床を同時にモニタリングできる。

 一方の病床には、患者の毛穴までが見える高解像度ビデオシステムや、双方向で音声をやり取りできるスピーカーフォン、支援センターを呼び出すアラートボタン、薬などを運ぶモバイルカートなどを配置する(写真3)。看護師が病室内に入らなくても患者をケアできる環境になっている。

写真3:双方向の音声・ビデオシステムにより遠隔から患者の状態を詳細に把握する