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”ソフトウェア化”から始まった産業構造の変化の連鎖がいよいよ現実に、PwCコンサルティングの川原氏

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年11月2日

車の進化は2つの方向に分かれる

 産業構造の変化の流れのなかで、既存の自動車産業の優位性は大きく揺らいでいる。これまで自動車が持っていた価値が消失し、拡散していくためだ。

 車のソフトウェア化により、さまざまな電子制御が搭載され車単体の付加価値が高まった。それがコネクテッドカーになり、付加価値の一部が車の外部(ネットワークやクラウドサービス)に流出したものの、「車のためのサービスに閉じていたため価値は自動車メーカーの中にとどまった」(川原氏)

 ところが、いわゆる第4次産業革命の時代を迎え、車以外のデバイスもが共通のIoT基盤につながり出したことで「車は一デバイスに成り下がる」(川原氏)。さまざまなサービスが登場し、付加価値は全体としてのデータと、その解析結果に移ることになり、車が持っていた価値のほとんどが失われていく。

 川原氏は、「IoTの世界では、車というデバイスが向かう方向性は、大きく2つに分かれる」と見る。

 1つは、交通インフラとして、社会の中央制御によって提供される移動手段のイメージだ。CPS(サイバーフィジカルシステム)の中でのモビリティである。

 もう1つは、自律制御の自動運転車である「ロボットカー」。クラウドの機能を利用しながら、個々の車が自律的に動くことを目指す、自律制御のSDC(セルフドライビングカー)である。

 川原氏は、「車の進化は、前者のサービス化の論点で語られることが多い。だが、車というハードウェア自体も、IoTを活用することで高度化していく方向性がある」とする。

 自動車産業がモビリティ産業に変わると、事業の3要素である「顧客、商品、ビジネスモデル」もそれぞれ変化する。顧客は、個人中心(B2C)から、事業者中心(B2B)に大きく移る。顧客は固定された消費者ではなくなり、シーンによって利用形態が変わる。結果「人+シーン」で捉える必要がある。

 こうした分析の結果からPwCは、「自動車産業は今後、サービス、製品、プラットフォーム機能で構成される新産業領域となり、新たな産業からの参入と競争が活発化する」と予想する。

大局観をもった戦略ポジションが必要

 日本の自動車業界は、90年代以降、およそ10年ごとに新しい考え方を導入して競争力を強化してきた。「90年ごろまでに、ものづくりの力は品質改善活動により相当強化されてきた。ただ収益力が低かった。そこで車台のプラットフォーム化を進めることで2桁の利益率をたたき出すことに成功した」(川原氏)

 2000年代はグローバル生産体制を構築し、生産能力を2倍にまで高めた。2010年以降は、変化に対応する試みを続けていた。2020年代には、いよいよ変化が現実になる。川原氏は「ここで方向性を間違えないことが最も重要だ」と指摘する。

 それだけに製造業の経営者には、「事業環境の全体的な変化を読む大局観を持ち、目先の対応だけでなく、先々の打ち手を用意できる長考力などが必要になる」と川原氏は言う。

 なぜなら「自社事業の変革において、オペレーションを変革する、あるいは新しいビジネスの創出に挑戦するにしても、産業構造自体がどう変わるのかを理解していなければ、ビジネスがあらぬ方向に向かったり売れないモノを作ったりしかねない」(同)からである。