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日本企業の“習慣病”がデジタル変革を阻む、アビームコンサルティングの安部氏

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年11月24日

“戦後の成功体験”が機能不全に陥っている

 ただ「DXの気運が高まっているだけでは、日本企業のDXは実現できない」と安部氏は断言する。なぜか。「日本企業には“習慣病”とも言える構造的な問題を抱えている。その病気を1つひとつ改善していかなければ、真のDXは果たせない。1995年以降の25年間、日本企業の競争力が一直線に低下してきたことが、その証だ」(同)という。

 実は日本企業は、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ビッグデータなどの先端技術については、早くから検討してきた。技術、情報、資金は、いずれも欧米のDX先進国と遜色ない。にもかかわらず結果が出せていないのは、「日本企業の経営形態が、戦後50年間に確立された独特の考え方に基づいており、今もそこから脱却できていないからだ」(安部氏)

 高度成長期の成功体験のまま、前例踏襲と個別改善による事業の継続をひたすら進めてきた日本企業。業務の増加には人員投入でしのいできたため組織が肥大化した(図3)。「実力主義、成果重視で新陳代謝を繰り返してきた欧米企業に対して競争力が低下してしまった」(安部氏)というのである。

図3:高度経済成長期の日本企業の特徴

 「経営者のITの捉え方も違う。日本型の継続性重視の視点では、ITは効率化の手段でコストダウンが目的だが、欧米ではビジネスを飛躍的に向上させる技術として捉え、ITでいくら儲けられるかを重視している。この違いは、日本ではITを外部ベンダーに発注する形が主流なのに対し、欧米は自社の成長ために内部で開発するという導入形態の違いにもつながっている」(同)

 バブル後の1995年以降、インターネットの拡大やグローバル競争の激化など大きな環境変化が起きた。しかし多くの日本企業は、その変化に対応できず、機能不全に陥ったのは、こうした構造的な問題が背景にある。

 安部氏は、「戦後50年以上、優位を保っていた“成功モデル”が、足元の25年は逆に“習慣病”として企業の成長を阻害し、もはや耐えられない状況になっている。この病気を治していかない限り、日本のDXは進まない」と強調する。

21の習慣病の改善が日本企業のDXを進める

 日本企業が変革すべき課題として安部氏は、「進化しない業務」「硬直化した組織・人材」「IT・新技術の誤解」という課題に対し、それぞれ7つ、計21の習慣病を挙げる(図4)。これら21の習慣病を改善していくことで、日本企業のDXは前進する。

図4:日本企業が抱える21の“習慣病”

 例えば、進化しない業務における習慣病には、不明瞭な観点で何も考えずに承認プロセスを増やしながらも、誰が何を承認するのかを決めずに承認のハンコだけが並び統制の強化につながっていないことがある。「日本企業の9割が、あいまいな承認を続けている。記述の正確性はロボットにチェックさせ、人間は1観点1承認で責任を分けるなど、役割を明確化していくべきだ」と安部氏は提言する。

 安部氏は、日本企業のDXの成功事例も紹介した。製造業のA社では、一部業務をRPA(ロボティックプロセスオートメーション)に置き換え効率化を図っていたものの、全社の業務改善にはつながっていなかった。そこで、トップ主導でデジタル業務改革を推進し、現場においてRPA化を要する業務そのものが必要かというところから見直した。

 結果、「半年でRPA化対象業務の6割を削減し、RPAの余力を新たな業務の自動化に充てられた」(安部氏)。改革の成果を評価や給与に反映させることを経営者が約束したことで、現場の意欲も高まり、部門横断の改革が進んだという。

 安部氏は「この例のように、トップが明確な道を示し指示を出すことで、現場を意欲が高め、成功体験を積み上げることが非常に重要だ。それを繰り返していくことで、過去の路線を継続することを良しとしてきた企業文化を、変革に対して前向きに変革していくことができる」と語る(図5)。

図5:日本企業が変革に成功するための道筋