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製造や物流の“現場データ”をつなぐ、独TeamViewerがAR技術を買収した理由

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年12月14日

TeamViewerは、2005年にドイツで創業した産業用リモート接続アプリケーションの開発企業。製造業を中心に、世界で65万社が利用し、常時4500万台以上でのデバイスが同社のクラウドに接続されているという。同社は2020年8月、独Ubimaxを買収し、AR(拡張現実)ソリューション「TeamViewer フロントライン」として発売した。どんな相乗効果があるというのだろうか。2020年11月25日に開かれた記者説明会から紹介する。

 独TeamViewerが買収したUbimaxは、ウェアラブルコンピューティングの専業企業である。独BMWや米コカ・コーラなど世界で200社以上の導入実績を持っている。その技術をTeamViewerのリモート接続機能に組み合わることで“現場”のデジタル化による標準化と効率化を推進するという。

日本の現場は未だ人手頼みで品質も生産性も低下

 TeamViewer日本法人であるTeamViewerジャパンのビジネス開発部部長である小宮 崇博 氏は、日本の産業界の課題を次のように語る。

 「日本はITもOT(Operational Technology:運用管理技術)も世界の先端技術を導入している。だがOTの現場では特に、個別の制御技術の高度化に留まり、オペレーションが前後の行程でつながったり、水平方向にデジタルでつながっていくことができていない」

 すなわち、現場での人と人のやり取りに、紙やメール、電話などが依然として使われており、デジタル化されていない領域があるという指摘だ。例えば、「制御システムの運用では人の役割が非常に重要で、逆に言えば人に依存したシステムが出来上がっている」(同)という。

 UbimaxのフロントラインをTeamViewer買収前から取り扱ってきたアウトソーシングテクノロジーのソリューションサービス事業部 イノベーションプラットフォーム部 マネージング・ディレクターの須永 知幸 氏も、「日本の製造現場は3つの大きな課題に直面している」と指摘する(図1)。

図1:日本の製造現場が直面している3つの課題

 須永氏が指摘する課題の1つは、作業品質の低下だ。品質にばらつきが生じ、事故やヒューマンエラーが起きやすくなっている。2つ目は作業技術の属人化。熟練技術者の退職により技術継承ができないという深刻な問題になっている。そして3つ目が生産性の低下だ。コロナ禍で出張ができなくなり、熟練者が現場で支援できないため、状況確認と指示が不十分になりプロジェクトが進まなくなっているとする。

 なおアウトソーシングテクノロジーは、親会社の技術者派遣事業をテクノロジーの観点から支援する会社。顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)への対応ニーズが高まる中で「導入効果が見えやすいAR(拡張現実)を提案し始めた」(須永氏)という。

リアルな世界と実世界のデータをつなぐ

 こうした課題解決にAR技術は有効だと小宮氏と須永氏は口をそろえる。「TeamViewerのITをつなぐ技術と、UbimaxのOT(Operation Technology)支援技術を組み合わせることで、リアルな世界と実世界のデータをつなぎ、サプライチェーン全体の最適化を推進する」(小宮氏)

 TeamViewerフロントラインが想定する業務は、倉庫での商品ピックアップや、工場の組み立て行程や品質保証工程、テナントの保守管理などと、作業現場の遠隔支援など(図2)。スマートグラスやタブレット上で、作業者の動きと作業情報をリンクさせる。作業記録をビデオ録画することで、トレーニングや事故の事実確認にも使う。

図2:TeamViewerフロントラインが想定する業務の例