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日本の金融機関のデータ活用が進まない理由、業界外データの活用促すオルタナティブデータ推進協議会

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2021年6月18日

議論を重ねるうちにデータの“鮮度”が落ちる

 これに対して日本での流通額は、「感覚値だがデータプロバイダー全社を合わせても10億円に届かないほどだろう」と東海林氏は話す。同氏は日本でオルタナティブデータの活用が進んでいない理由を、こう説明する(図3)。

図3:日本でオルタナティブデータの活用が進まない理由

 「まず、企業のレギュレーションの問題がある。オルタナティブデータを活用するために購入しようとしても、『コンプライアンス上OKか』『プライバシーの問題はないのか』など、既存の法務部門が持っている知識だけでは対応できない課題がたくさんある。議論を重ねているうちに時間が経ち、データの“鮮度”が落ち、使う意味がなくなるケースが非常に多い。他にも『インサイダー取引にならないか』なども確認する必要がある」

 金融業界に限らないものの、データ分析のための人材が不足していることもある。さらに「データ購入のコスト以上の効果が出せるのかを想定できず、なかなか決済が降りない」(東海林氏)ともいう。「デジタル化を進めることに異論をはさむ経営者はいないだろうが、デジタル化のためには『データを買う必要もある』ということへの理解を進める必要がある」(同)わけだ。

 こうした課題の解決は、個々の企業では進まないとの考えから、企業が一致団結して課題に取り組むために設立されたのが、オルタナティブデータ推進協議会である。「日本でのオルタナティブデータの市場が立ち上がっていない今のタイミングで、ルールを定め、きちんとした取り決めの中で流通を拡大させたい」(東海林氏)というのが同協議会の設立趣旨だ。

 同協議会の理事は、同協議会の意義を次のように説明する。

 オルタナティブデータに基づく企業分析サービスを提供するナウキャストの赤井 厚雄 氏は、「2021年秋にデジタル庁が発足し、政府でもデータに基づく政策立案(EBPM:Evidence Based Policy Making)が始まろうとしている。これからは公共データと民間データを組み合わせて活用していく必要がある。ともすると個人情報の保護に議論が向かうことが多いが、本来は利活用を前提に保護のバランスを取る議論であるべきだ。その議論の民間のハブに本協議会がなることを目指す」とする。

 三菱 UFJ 信託銀行の石崎 浩二 氏は、「例えば、運転免許取得時の認知機能に関する情報を使って、高齢者向け金融サービスの改善に生かすことなどが考えられる。大学の研究室とは、そうした分析システムをプライバシーの問題などを解決して社会実装する研究を進めている」と、他業界や学術機関との連携が重要になると指摘する。

 金融情報データを提供する英リフィニティブ日本法人の笠井 康則 氏は、「コロナを境に非構造化データを使ったデータ分析が急速に進んでいる。日本は言語の問題もあり、これからだが、オルタナティブデータを丁寧に扱うデータベンダーが多い。日本が世界の金融マーケットで存在感を増していくための原動力になるのではなか」と語る。

 三井住友トラスト・アセットマネジメントの松本 宗寿 氏は、「デジタル化の進展でオルタナティブデータの供給量が増えており、活用していかねばならない。一方で運用会社がデータを収集する際の法的な制約が増えてきている。ESGをはじめとした非財務情報による投資判断が重要になる中、オルタナティブデータが非財務情報を数値化する助けにもなる」とした。

理解を促すための調査や実証実験を実施

 オルタナティブデータ推進協議会には2021年5月時点で24の企業・団体が加盟している。金融機関のほか、ブルームバーグや日本経済新聞社、QUICKといった経済情報の提供者や、東京証券取引所、日本気象協会などのデータプロバイダー、慶應義塾大学経済学部フィンテックセンター、東京大学工学系研究科、ニッセイ基礎研究所など研究・教育機関などが名を連ねる。

 今後の活動としては、オルタナティブデータ利用への理解を促すための調査や実証実験の結果の共有、データの取り扱いルールの作成などを挙げる。データ分析を担う人材の育成も支援する。

 これまでに「理解醸成」「レギュレーション」「人材育成」「企画」の4つの委員会が活動を開始している。外部に向けたイベントも、2021年6月28日に第1回を開催し、その後も3カ月に一度のペースで開催していきたいという。

 協議会の会員も継続して募集する。会費は、一般企業の正会員の場合、入会費が3万円、年会費が36万円。スタートアップ企業は、それぞれ3分の1になる。教育機関と研究機関、公益法人などは無料である。