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「ソフトウェア・デファインド」×「サステナビリティ」で加速するモビリティ業界の変革
モビリティ業界は今、「100年に一度」といわれる革新のまっただ中にある。それはハードウェアとしての自動車の進化にとどまらず、社会全体の中でモビリティの価値を再定義するというものだ。この変革には2つの大きな潮流がある。ハードウェア中心のモノづくりから、ソフトウェア中心へとシフトする「ソフトウェア・デファインド」と「サステナビリティ」だ。2022年2月24~25日に開催された「第7回オートモーティブ・ソフトウェア・フロンティア2022オンライン」では、米マイクロソフトの江崎智行氏が、「モビリティ業界の変革を加速する、『ソフトウェア・デファインド』×『サステナビリティ』への取り組み」と題して講演した。
マイクロソフトはモビリティの進化に2つの潮流を見ている
今、モビリティ業界が直面する変革はCASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)という開発ニーズへの対応にとどまらない。米マイクロソフトの自動車・モビリティ産業担当ディレクターである江崎智行氏は、「つながることを前提に、車を取り巻くバリューチェーンを最適化し、さらには社会全体のエコシステムの中でモビリティの価値を再定義していく必要がある」と語る。
そうしたモビリティ業界の進化に、マイクロソフトは2つの潮流を見ている。1つはモノづくりをハードウェアからソフトウェア中心へとシフトする、「ソフトウェア・デファインドの推進」。もう1つは、カーボンエミッション(炭素排出量)を主眼に置く「サステナビリティへの挑戦」だ(図1)。
「この2つの潮流には、個社単体での解決が難しいという共通点があります」と江崎氏は指摘する。
例えば、ソフトウェア・デファインドの第一段階は自動車のCASEやCX(顧客体験)の高度化に向けたDX(デジタル変革)である。だが、これはバリューチェーンとQCD(Quality、Cost、Delivery)に大きなインパクトをもたらす。組織・プロセス、ビジネスモデル、テクノロジー、サプライチェーンそのものの役割までを大きく再定義する必要があるからだ。
サステナビリティの観点では、自社での燃料消費による直接的な温室効果ガスの排出を抑える「スコープ1」と、電気やガスの使用に伴う間接的な排出を抑える「スコープ2」だけでなく、事業に関連する他社からの排出を抑える「スコープ3」への取り組みが重要になってくる(図1参照)。そこでは、原材料から、その輸送、サプライチェーンまでだけでなく、販売した後の製品の使用から廃棄まで、エコシステム全体にわたって排出量をトレースし、情報を開示することが要求される。
ソフトウェア・デファインドはオープンアプローチで実現する
続いて江崎氏は、これら2つの潮流を経営課題として捉え、実現していくための具体的なステップや取り組み方針を説明した。
まず自動車業界のソフトウェア・デファインドの推進では、それを支える仕組みとして、次の3つのプラットフォームが必要だとする。
(1)「in-vehicle(車載)」のためのソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)プラットフォーム
(2)「out-vehicle」のためのコネクテッド・ビークル・プラットフォーム。車載側とOTA(無線通信によるデータの送受信)などで連携するクラウド環境を指す
(3)「outside-Auto」のために異業種連携のエコシステムをつなぐモビリティ・サービス・プラットフォーム
「3つのプラットフォームは有機的につながり、複雑系を支える仕組みを構成します。例えば今後、ハードウェアとソフトウェアの分離はさらに進み、自動車用のソフトウェアは基本的にクラウド上で更新され車載側にデプロイされる形になっていきます。このとき、ソフトウェアのどの部分を車載側に置き、どの部分をクラウド側に置くかについては様々な可能性があり、それは未知の領域です」(江崎氏)
自動車が必要とするソフトウェアの役割や位置付けは加速度的に複雑化していく。だが現時点では、これを支えるテクノロジーやツール、開発環境は未成熟である。ハードウェアとソフトウェアの開発にある大きなギャップを乗り越えるには、開発スピードやプロセスを統合しながら全体規模での開発ループをどう回していくかといった課題もある。
こうした開発に向けては、自社で担うか(MAKE)、外注するか(BUY)という二者択一になりがちだ。そこにマイクロソフトは、第3のオプションとして「オープンアプローチ」を提言する。2021年10月には、オープンソースの開発環境「Eclipse」のワーキンググループとして「SDV(Software Defined Vehicle)オープン・エコシステム」を立ち上げた。
SDVオープン・エコシステムには、概念モデルを意識せずに開発できるコードファーストの考え方を取り入れ、「Requirements to car」というコンセプトでDevOps(開発と運用の統合)に向けた開発ループの実現を目指す(図2)。
江崎氏はSDVオープン・エコシステムについて、「車載側のハードウェアには一切依存しないソフトウェアコンポーネントを、完全にフリーなオープンソースとして提供する点が重要です」と語る。SDVの基本ソフトウェア(OS)、クラウド上での開発環境、全体をつなぐフレームワークなどの基盤をデザインし、これらを業界共通で協調して開発する「非競争領域にしていく」(江崎氏)という。