• News
  • 共通

アジャイルな企業しか生き残れない、重要なのは簡単に真似されない“現場力”

シナ・コーポレーション代表取締役の遠藤 功 氏、「アジャイル経営カンファレンス」から

ANDG CO., LTD.
2022年4月20日

「日本企業が競争力を高めるためには、デジタルトランスフォーメーション(DX)と現場力の掛け算が欠かせず、そこでは“アジャイル(俊敏)”の考え方が重要になる」−−。こう指摘するのは、元ローランド・ベルガー会長でシナ・コーポレーション代表取締役の遠藤 功 氏。2022年1月21日にオンライン開催された「アジャイル経営カンファレンス」(主催:アジャイル経営カンファレンス実行委員会)に登壇し、アジャイル経営の重要さや、企業がどのように採り入れるべきかについて語った。

 「今の日本企業に求められているのは『生まれ変わる』こと。現状の延長線上ではなく、10年後、20年後を想定し、その未来を起点に生まれ変わるのだ」−−。シナ・コーポレーション代表取締役の遠藤 功 氏は、このように提言する(写真1)。

写真1: シナ・コーポレーション代表取締役の遠藤 功 氏

 遠藤氏は、「現代はVUCAの時代である」とした。「VUCA」とは、「Volatility(不安定)」「Uncertainty(不確実)」「Complexity」(複雑)」「Ambiguity(曖昧模糊)」の頭文字を取った言葉で、先の読めない不透明な時代を表している。VUCAの時代は今後、10〜30年ほど続くと考えられている。そこで生き残るには、「環境に適応しようとするのではなく、自社の未来の姿を示し、そのゴールに向かって進むべきだ」と遠藤氏は強調する。

未来を起点にビジョンを実現するための戦略を考える

 遠藤氏は経営者に対し、「10年後、20年後のあるべき会社の姿を掲げるのが第一の仕事だ」と指摘する。しかし日本企業の場合、「ビジョンと経営の現状には大きな隔たりがある」(同)という。

 「多くの日本企業は、ビジョンと実際の経営のギャップを『Present-Push』という考え方で埋めようとしている。現在を起点に、やれることをコツコツと積み上げていくアプローチだ。しかしPresent-Pushは、目標到達までに多大な時間がかかる」(遠藤氏)という。

 そこで遠藤氏が提案するアプローチが「Future-Pull」だ(図1)。未来を起点にビジョンを早く実現するための戦略を考える。「これからの経営には、現状を起点にするPresent-Pushの良さを活かしつつ、Future-Pullにも取り組みダイナミックな変革を大胆に進める必要がある」(遠藤氏)

 Future-Pullを実践している企業の例として、遠藤氏はトヨタ自動車を挙げる。トヨタは、2040年までにMaaS(Mobility as a Service:サービスとしての移動)を提供する会社に変わると宣言し、その一環として富士のすそ野で「Woven City」というスマートシティの実証実験を始める。

 加えて、2030年に世界で350万台という販売目標を掲げEV(電気自動車)に大きく舵を切った。こうした決断の背景には、「強烈な危機感と未来志向がある」と遠藤氏は指摘する。

 トヨタのように企業が生まれ変わるためには、「ビジョン」「競争戦略」「オペレーション」の3つの要素すべてをゼロベースで見直し、それぞれの整合性を取りながら変えていく必要がある」と遠藤氏は強調する。

図1:会社が生まれ変わるには「ビジョン」「競争戦略」「オペレーション」の3要素を見直す必要がある

 これら3要素を見直した例としては、自身が社外取締役を務めるSOMPOホールディングスを挙げる。同社が掲げるビジョンは、「安心・安全・健康のテーマパーク」だ。保険会社でありながら、保険が不要な世界を目指し、新しい事業に次々と挑戦している。

 具体的には、まず2016年に介護事業に本格参入し、複数の企業を買収したほか、それら事業を「SOMPOケア」と1つのブランドに統合した。現在は業界2位の規模となっている。2017年にはサイバーセキュリティ事業に、2019年にはビッグデータ事業に、それぞれ乗り出すなどデジタル分野にもチャレンジしている。この間、本業だった保険分野でも、海外での成長を念頭にアメリカの保険会社を買収してもいる。

 遠藤氏はSOMPOの動きを「過去の延長線上ではなく、未来を見据えて変えるべきものは思い切って変える、捨てるべきものは思い切って捨てている」と評価する。