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世界の経営者の懸念点はサプライチェーン・労働力・デジタル化、米アリックスパートナーズの調査

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2022年4月26日

日本は「すぐに手を付けるべき」との危機感が薄い

 日本でも「向こう3年でビジネスモデルを変えなければいけない」とする割合は95%と高い。だが「直ちに変える」は20%にとどまり9カ国中で最も低い(図3)。野田氏は「他国に比べCEOの認識が楽観的で、『すぐに手を付けるべき』という危機感が薄いと見られる」と警鐘を鳴らす。

図3:日本の経営幹部の危機意識は低い

サプライチェーンの混乱への対処が急務

 世界企業が特に懸念する、サプライチェーン、労働力、デジタル化の3分野については、どうだろうか。

 まずサプライチェーンについて、課題意識を持つ日本の経営幹部は43%で、中国などと比べると低い結果だった。新たな輸送契約の締結や価格転嫁など「短期的な対策」は約6割実施している半面、「長期的な対策」を講じているのは約3分の1である。「短期的な対策だけでは不十分である」と77%が認識していながらだ。

 エネルギーをはじめ、様々なものの価格が高まる中、サプライチェーンの強化は急務なはず。野田氏は、「日本企業の多くが長期的な対策を打てていな。ブロック経済に対応した、よりリスクの少ないサプライヤーとの契約を進め、調達を迅速化する必要がある」と指摘する。

 鈴木氏は、「企業の取り組みは、今見えているサプライチェーンよりも先にある下流・上流工程を含めなければならない。そのうえで、どこにボトルネックが発生しているのかを把握し対応する必要がある。自社に有利になるよう、バリューチェーンのコアサプライヤーを買収するといった打ち手が必要なケースもある」と語る。

 労働力不足については、日本でも「不足が恒常化していくだろう」する回答が65%に達した。「優秀な人事不足を懸念している」する回答も36%ある。労働力に関する課題としては、「必要なスキルを持つ人材の確保」「従業員の健康、メンタルヘルス、安全」「労働力不足をカバーするためのAIや自動化への投資」の順に多い。

 経営幹部の63%は、「自社の社員が今後の事業成長に必要なスキルを持てない」と考え、教育の必要性を認識している。だが同時に75%が「自社の現在の教育制度は不十分」と認識している。

 足下では、サプライチェーンの混乱や製造の自国回帰などの影響から、各地で人材不足が生じている。米国の製造現場における労働力不足は深刻で、「期間工の時給が40ドルを超えるところがあるなど、正規労働者より高くなる逆転現象が起きている」(野田氏)という。

 鈴木氏は「労働力はサプライチェーン問題とリンクしている。外注先を含めたバリューチェーン全体での労働力確保を考えなければならない」とする。

6割成功すると考えたら実行するといった素早い動きが必要に

 デジタル化については、日本の経営幹部の74%が「不可欠」または「重要」と考えているものの、そこへの危機感を持つとする回答は40%にとどまる。中国のそれは76%である。「デジタル化は仕事のやり方そのものを変革することだ。日本では、ここがネックになっており、6割超の経営陣が『従来のやり方を変えることができない』と答えている」と野田氏は指摘する。

 デジタル化推進の課題として「予算確保」を挙げる声は小さく、「自社で導入したテクノロジーやツールが十分に使いこなせていない」との考えが半数におよぶ(図4)。こうした傾向自体は、グローバルにも共通だ。「デジタルトランスフォーメーション(DX)のための予算は、ある程度優先的に確保しているという背景がある」(野田氏)と考えられる。

図4:DXに対する日本の経営幹部の課題は予算より実装

 ただし野田氏は、「一般に日本企業のIT投資額は、欧米企業のそれに比べて小規模という傾向がある。売上高比で日本企業は1~2%以下だが、欧米企業は4~5%以上だ。不十分な投資では投資対効果が低くなるだけに、結果として日本企業実行性が低いと認識する可能性がある」と指摘する。

 日本企業がデジタル化に戸惑う理由の1つとして鈴木氏は、「経営陣の世代の問題」を挙げる。「欧米では経営者がどんどん若返りしている。だが日本の大企業は変化が遅い。デジタル変革の本質を知り、投資に踏み切るトップの決断が求められている。ただ日本のオーナー経営者は投資判断が速く、変化しようという覚悟を感じる」(同)という。

 野田氏は、企業が破壊的変化に対応するために、「早く動き出すことに尽きる」と繰り返し強調した(図5)。

図5:破壊的変化に対応するためにアリックスが薦める施策

 「日本企業は、従来のやり方に固執する場合が多い。競争を勝ち抜くには、誰よりも早く自分自身を変える必要がある。完ぺきを求めて出遅れることも、日本企業に多い特徴だ。計画を作り込むことよりも、『6割成功すると考えたら実行する』といった経営判断が必要だ」