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世界の経営者の懸念点はサプライチェーン・労働力・デジタル化、米アリックスパートナーズの調査

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2022年4月26日

経営環境の変化に世界の経営者が危機感を強めるなか、日本の経営者は危機感が薄い−−。こんな調査結果を企業再生ファンドである米アリックスパートナーズの日本法人が発表した。世界9カ国で10業界の経営幹部3000人に聞いたアンケートの結果だ。同調査について2022年2月に開かれた記者会見から、その概要を紹介する。

 アリックスパートナーズは、米デトロイトで1981年に発足した企業再生ファンドだ。現在の投資先は、再建対象でない健全なクライアント企業が8割を占めるなど、企業価値向上に特化したアドバイザリー業務を展開している。約3000人の専門家が所属し、世界20拠点、うちアジアでは東京、ソウル、香港、上海の4拠点を置いている。

 アドバイザリー業務の中心は、クライアント企業が直面する難局を、どう乗り越えるかに対する助言である。そのためもあり3年前から、世界の経営幹部を対象に、企業を取り巻くディスラプション、つまり破壊的な変化に関する調査『ディスラプション・インデックス』を実施している。同調査ではディスラプションを「企業のビジネスを変えてしまうほどの劇的な変化」と定義する。

 3回目となる『ディスラプション・インデックス2022年版』では、世界9カ国(米国、日本、英国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、中国)の10業種(自動車、航空、エネルギー、金融、通信など)に属する企業の経営者および取締役、事業部長以上の企業幹部、3000人にインタビューした。

破壊的変化への対応に世界は強い危機感を抱く

 アリックスパートナーズ日本代表の野田 努 氏はまず、世界の企業トップが考える「世界経済を変える要因」として、(1)生産労働人口の減少、(2)技術革新による事業モデル変革、(3)米中関係にみられるグローバリゼーションの変化、(4)気候変動に対するカーボンニュートラルの動きという4つの潮流を挙げた。

 これらの変化要因に対し世界の経営者は危機感を強めている。72%が「変化に対応できず、自身の職が危うくなる」と感じている。1年前の調査結果である52%から大きく上昇した。ただし、新型コロナ対応が2022年の最優先事項だとする経営幹部は3%と前回から大きく低下した。「ほとんどの経営者が、コロナよりも、より長期的な課題に取り組まなければいけないと考えている」(野田氏)

米アリックスパートナーズの日本法人代表の野田 努 氏

 強い危機感の下、CEO(最高経営責任者)の94%が「3年以内に自社の事業モデルを変えていかなければいけない」とする。その一方で、経営幹部の57%が「経営環境の変化に適応できていない」と懸念している。

 特に懸念する分野は、(1)サプライチェーン、(2)労働力、(3)デジタル化の3つである(図1)。デジタル化に対しては、経営幹部の78%が「重要だ」と答えながらも、46%は「デジタル投資を生かし切れていない」と考えている。

図1:世界の経営幹部が特に懸念する分野は3つある

 こうした世界の調査結果に対し、日本からの回答は傾向が異なっている。例えば。「自身が失職する」と懸念している割合は51%で、世界平均よりもかなり低い(図2)。しかも9カ国中で唯一、前年よりも、その割合が低下した。つまり「危機感が薄れている」(野田氏)ということだ。

図2:「自身が失職する」という危機感を持つ経営幹部の割合が日本は低い

 その理由を野田氏は、「新型コロナ対策は長期化しているが、目先の経営状況が落ち着いていることから危機意識が低下したため」とみる。同社で自動車業界を担当するマネジングディレクターの鈴木 智之 氏は、「2020年は新型コロナが拡大し株価が大幅に下がったが、2021年は反転して高くなっており、現状に満足していることもある。日本では株主からの変革圧力が弱い」と分析する。