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日本の国際競争力に足りないのは経営戦略を描ける人材、スイスIMDの一條 和生 教授

「Japan SAFeシンポジウム 2024」より

阿部 欽一
2024年3月19日

DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が高まる中、日本の競争力は世界の中では低く評価されている。『世界競争力年鑑』をまとめるスイスIMDでInnovation and Leadershipの教授を務める一條 和生 氏が「Japan SAFeシンポジウム 2024」(主催:米Scaled Agile、2024年2月7日)に登壇し、今後の企業競争を高めるのに必要な「Future Ready」の考え方について解説した。

 「2024年は日本企業の真価が問われる年になる」−−。世界的に著名なビジネススクルールであるスイスIMDでInnovation and Leadershipの教授を務め、一橋大学名誉教授でもある一條 和生 氏は、こう指摘する(写真1)。

写真1:スイスIMD教授/Innovation and Leadershipで一橋大学名誉教授でもある一條 和生 氏

 2022年の秋以降、日本企業への世界からの注目は高まりつつあり積極的な投資も増えている。だが一條氏は、「これが本当に日本企業が変革したことによる結果なのか、あるいは、一時的に世界的なマネーのリスク回避における消極的な結果なのかが問われてくる」という。

 IMDは経営者教育にフォーカスしたビジネススクールである。そのIMDが今、「経営者が学ぶべきポイント」として重要視するのが、(1)戦略、(2)レジリエンス、(3)レジリエンスを実現するための「Future Ready」の3点だ。

 一條氏は、「企業にとっての『戦略とは何か』を考えた上で、先行き不透明な時代に重要なレジリエンスを考える必要がある。しかし未来は予測できず、何が起こっても乗り越えられるだけの組織能力としての「Future Ready」が重要になってくる」と強調する。

戦略の本質は「リスクを取る」こと

 IMDは毎年、『世界競争力年鑑』を発表している。2023年版では、日本の競争力の総合順位は、世界64カ国中35位で、過去、最も低かった。一條氏は、「2024年のランキングは、これよりも上がってくるだろう。ただ残念ながら、この10年の傾向としては、日本企業の評価は非常に低いのが現状だ」と話す。

 競争力年鑑では、総合順位のほかに、経済状況、政府効率性、ビジネス効率性、インフラの4つの大分類ごとの順位や、大分類下の小分類での順位なども発表している。一條氏は、「経済状況、政府効率性などの項目では日本の評価は、さらに低い」と明かす。

 なかでも企業の経営における実務能力は、世界64カ国中62位と非常に低い評価になっている。この要因について一條氏は、「今の時代のビジネスリーダーに求められる力が足りていない」と指摘する(図1)。つまり「変革を導く経営人材、本当の意味で戦略を作れる人材が不足しているのではないか」(同)という。

図1:日本の国際競争力が非常に低いのはビジネスに問題があるため

 「戦略とは何か」を考える一例として一條氏は、ここ10年、20年で世界で最も成長が期待されるアフリカ市場において、日本企業が、ほとんど事業展開できていない現状を挙げる。「将来が未知なことは、多くの海外企業にとっても同じ」(同)にもかかわらずだ。つまり、「リスクを取れないことが日本のマネジメント層の実務能力の問題点だ。日本企業が戦略的な事業展開ができていないに等しい」と一條氏は強調する。

もちろん「計画や数値目標なしに経営は成り立たない」との指摘はある。しかし「過去の実績に基づく計画や数値目標は、現状維持の経営には役立っても、改革には役に立たない。ここ10年、20年で起こっているのは“非連続”であり、現状維持による変化ではない」(一條氏)

 その背景には、「今の時代、リスクを取る“真の意味”での戦略が求められている。にもかかわらず日本企業は、計画と分析にかなりの時間とエネルギーを割いてしまっている」(一條氏)ことがある。

 一條氏は、カナダ・トロント大学名誉教授のロジャー・マーティン氏の言葉「A plan is not a strategy.(事業計画は戦略ではない)」という言葉を挙げながら、「日本企業は必死にプランニングし、そこから競争優位を勝ち取ろうとしたが上手くいかなかった。それもそのはずで、そもそも戦略は計画できないものであり、戦略の本質はリスクを取ることにある」と力を込める。