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日本のDX戦略は“張りぼて化”し成熟度はグローバル平均を下回る、モンスターラボが調査

推進力不足、アジャイルアレルギー、レガシーシステムの3つが構造的な課題に

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2024年5月1日

日本ならではの構造的課題がDX成熟度に現れている

 日本のDX成熟度が低い背景には、「日本企業が抱える構造的な壁がある」と山口氏はいう。具体的には、(1)DX部門の構造的な推進力不足、(2)アジャイル(俊敏)型DXへのアレルギー、(3)ブラックボックス化したレガシーシステム基盤である(図3)。

図3:日本企業が抱える3つの構造的な課題(出典:モンスターラボ)

 DX部門の構造的な推進不足とは、「統合的DXを実行可能な組織構造になっている」とする回答が、中東97%、米国87%、欧州84%に対し日本は53%なこと。「縦割りの部門構造に起因し、全社的なDX戦略を現場レベルに落とし込むのが難しい」(山口氏)とみる。

 アジャイル型DXへのアレルギーでは、「アジャイルアプローチを採用し、新しいビジネスチャンスに素早く対応できている」との回答が、中東93%、米国83%、欧州75%に対し日本は48%だった。「ウォーターフォール型で粛々と進める取り組みが未だに続いている」(同)とする。

 レガシーシステム基盤では、「各種ソースからのデータ収集・集計が過去1年で“かなり進展した”」とする回答が、中東57%、米国60%、欧州52%に対し日本は28%である。「パッケージを使わず、ゼロから自社のオペレーションに沿って作り上げるスクラッチ開発が主流なことの現れだ」(同)という。

DX専門組織の成功事例を全社に広める

 こうした現状を打破するためには、「事業部門から独立した組織がDXを推進し、そこでの成功事例を元に事業側を変革することが有効ではないか」とモンスターラボは提言する。具体的には、(1)独立したDX組織の確立、(2)迅速な成功事例作り、(3)DX組織の変革の全社展開の3つのステップを踏む。

 このステップを段階的に進めた成功例として山口氏は、シンガポールの保険会社Income(インカム)を挙げる。同社は2017年にDX推進の専門組織「Digital Transformation Office(DTO)」を設立。将来の顧客になる若年層の取り込みを目的に、主に新規事業開発に当たっている。

 例えば、2018年にはタクシー保険「Droplet(ドロップレット)」を開発した。雨が多いシンガーポールでは降雨時にタクシーの料金が急騰するため、これを事前予約によって抑えるための保険である。

 2019年には航空券価格を補償する「Pinfare(ピンフェア)」を、旅行比較予約サイトの英Skyscannerと共同で開発。2022年には、低価格・低コストなマイクロインシュアランス(少額保険)「SNACK(スナック)」をリリースしている。日常生活の支払い時に0.3シンガポールドルからの保険料支払うことで保険を積み立てる。SNACKの開発では、モンスターラボがアイデア出しやアプリ設計などを支援している。

 Incomeの取り組みについて山口氏は、「本社オフィスと地理的に離れた場所にDTOの拠点を設け、保険業とは全く異なるバックグラウンドを持つ人材を集めることでユニークな商品を生み出している。DTOがスピード感を持って進めた成功事例を全社的に広めながら、組織文化を徐々に変えている」と説明する。

 加えて、「独立組織が全くの別の組織に見えると事業側では他人事になってしまう」(山口氏)ことを防ぐために、DTOのトップにはCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)がCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)として就任しているという。山口氏は「事業と現場の両方に精通する人材をアサインすることが重要だ」と強調する。

 ちなみにモンスターラボは、DX成熟度の測定を「DXケイパビリティ評価」サービスとして提供する。Web上で約80ある評価項目に回答すれば、業界平均やトップ企業の水準と比較できるとしている。