• News
  • 共通

DX推進を阻む人材確保と育成の壁、IPAの『DX動向2024』が指摘

田中 克己(IT産業ジャーナリスト)
2024年7月23日

労働人口が減る中、ユーザー企業はDX人材を抱えられるのか

 このように人材不足、スキル不足がDXの成果や変革を妨げている。2022年度の調査、「DX白書2023」、そして「DX動向2024」を比べれば、人材の質・量ともに年々、その不足感が高まっている。その要因として河野氏はいくつかを挙げる。

 1つは、優秀なDX人材の絶対量が足りないこと。デジタル技術活用の進展が人材不足を加速していることもある。IT/デジタル人材の多くがIT業界に属する日本では、「今欲しいといっても、人材育成には時間がかかる」(河野氏)だけに、ユーザー企業における人材不足感が一層高まっているわけだ。

 そもそも労働人口が減少する中で、DX人材を増やすのは難しい。さらに人材の流動性が低く、本当に必要なところに人材を配置できているかどうかが問われている。河野氏は、「産業構造が変革する中で、人材のポートフォリオを考え直す必要がある」とする。

 確かに、IT業界に7割、ユーザー企業に3割という人材の配置割合を「逆転させるべき」との声もある。だが、ユーザー企業にIT人材を抱える体力は、あるのだろうか。「IT業界に優秀な人材を多数配置するほうが、より多くのユーザー企業に効果的な対応ができる」という意見もある。

 では、DX推進に足りない人材とは、どのような人材か。IPAの「DX推進スキル標準」の人材類型別にみれば、DX導入をリードする「ビジネスアーキテクト」の不足が顕著である。次いで、データサイエンティスト、サイバーセキュリティ人材である。

 そうした人材獲得の課題は、「魅力的な処遇の提示」「人材のスキルやレベルの定義、スペックの明確化」「要求水準を満たす人材へのアプローチ」などができているかどうかだ。人材が大幅に不足し、獲得・育成が課題にも関わらず、人材育成予算が増えていないことも大きな課題だろう。ただ「不足している」と言うだけで、魅力的な処遇を提示できなければ前には進めない。だが現実では「DX人材だけに高い処遇はできない」という硬直な人事制度がDXを阻んでいる面は否めない。

ユーザー企業がデジタルに賢くならなければDXは進まない

 企業のDXを推進し加速させるためには、まず経営者が現状を認識し、課題を明確にすることから始める必要がある。そこにデータを活用し、経営課題と解決策を見つけ出す。CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)やCDOなどデジタル推進の役員を配置したうえで、DXを推進する人材を獲得・育成する。

 すなわち、ユーザー企業がデジタルに賢くならなければDXは進まないということだ。ユーザー企業から言われたシステムを作り上げるだけのITベンダーに期待しても、DXの目的や目指す姿を明確にできないユーザー企業には応えられない。

田中 克己(たなか・かつみ)

IT産業ジャーナリスト 兼 一般社団法人ITビジネス研究会代表理事。日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任。2010年1月にフリーのIT産業ジャーナリストに。2004〜2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。2012年10月からITビジネス研究会代表理事も務める。40年にわたりIT産業の動向をウォッチしている。主な著書に『IT産業崩壊の危機』『IT産業再生の針路』(日経BP社)、『2020年 ITがひろげる未来の可能性』(日経BPコンサルティング、監修)などがある。