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産業用AIが起こす産業革命が企業のあり方を変えていく【後編】
スウェーデンIFSの「IFS Unleashed 2024」より
ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)のクラウドサービスなどを手掛けるスウェーデンのIFSが、産業用AI「IFS.ai」の開発に力を入れている。同社の旗艦イベント「IFS Unleashed 2024」(米オーランド、2024年は10月14日〜18日)から、前編ではIFS.aiの現状を紹介した。後編では、IFS.aiの導入事例を紹介する。
「私たちの使命は明確で、みなさんに変革を推進するための力を与えることである。そのためには産業用AI(人工知能技術)が不可欠だ」−−。スウェーデンのIFSのCPO(最高製品責任者)のクリスチャン・ペダーセン(Christian Pedersen)氏は、こう強調する(写真1)。そのうえで産業用AIが不可欠な理由を、「コンテキスト(文脈)を理解する産業用AIは、業界と、そこでのビジネス、データ、働く人たちを理解し、現実世界の課題に則し、ハルシネーション(幻覚)がないからだ」と説明する。
IFSが開発する産業用AIが「IFS.ai」である。クラウドサービスの最新バージョンである「IFS Cloud 24R2」に搭載され、複雑化が進む業務や製造技術に対し、「高い信頼性と安全性を保ちながら効率を高められる」(ペダーセン氏)とする。業界に専門特化させた予測AIにより、「うっかりした見逃しや、知らなかったことも教えてくれるようになる」(同)という。
IFS CloudでIFS.aiを利用する新機能として今回、「IFS Cloud Home」と「IFS Cloud Copilot」が発表された。HOMEは、AI技術を搭載した動的なホームページでプロジェクトの状態をリアルに可視化し、何らかの異常を検出すれば修正案を提案する。Copilotは、自然言語で利用できるAIアシスタントで、日常業務やツールの使い方などをサポートする。
産業用AIによる国際空港の業務やサービスの変革例を提示
IFSはIFS.aiの活用シナリオを300以上用意しており、「そのうち60が、まもなく利用可能になる」(ペダーセン氏)とする。具体的な使い方を、国際空港の運営業務やサービスを想定した一連の流れとして紹介した。そこには、設備投資やメンテナンス、業務スケジュールの調整から人材配置いった業務における先行事例が含まれている。
例えば、新築するターミナルに太陽光発電を導入する際は、設計から発電パネルの発注、建築コスト、得られる電力のシミュレーションなど種々の項目を考慮し判断する必要がある。そうした複数項目をリアルタイムに可視化し全体把握を可能にするのがHOMEだ。発注した発電パネルの納期遅れが発生すれば、当初よりコストが増えることを知らせ、代替案と新規の発注書の作成までをサポートできるとする。
そこに、IFSが買収した設備投資計画ソフトウェ「Copperleaf」を利用すれば、発電パネル設置後のメンテナンス計画や必要な人員の配置といった複合的な要素も含めて、設定目標に最適化した投資計画の検討が可能になる。米エネルギー企業のXcel Energyでは、これらの機能をハリケーン発生時の迅速な復旧作業に役立てているという。
設備のメンテナンスにもAI技術を適用できる。例えば、スプリンクラーに水漏れが見つかった場合、一般には管理者に連絡し修理を依頼するが、管理者が全ての修理方法を把握していなければ適切な対応はできない。
AI技術を使えば、問題の発見者が、その箇所を撮影し修理チームと共有することで、画像から対処法や必要な部品などが調べられ、並行して、対応できるスキルを持つスタッフを見つけて依頼するまでをサポートできる。従業員の業務内容やスキルを把握するサービスとの連携によって実現する。
同様の使い方は、機体のメンテナンスでもできる。天候不良やアクシデントによる飛行機の遅延と欠航は日常的に派生しており、予定していたメンテナンスのスケジュール変更などは日常茶飯事だ。そうしたスケジュールの見直しにAI技術を適用する。
個別の修理対応も、パイロットが記載する電子化された航海日誌や、機体のセンサーデータと連携すれば、修理に必要なパーツを検索し、在庫の有無を確認し、着陸前に作業を手配できる。こうした運用は既に始まっているとする。AIアシスタントのCopilotは、システムの故障状態と、その影響による重要度を解析する「FMECA(Failure、Modes、Effects and Criticality Analysis)」などの機能も提供する。
併せて、作業指示書の作成や、指示書による作業スケジュールの調整などの自動化が図れる。インフラ関連業務では規定された正確な書類の作成が求められる。そこでCopilotに「○○の書類を作成して」と言えば、目的に合った最新のテンプレートを探しだし、必要な資料と数値を提案し、ルールに沿った記載を支援する。出来上がった書類を添付したメールの作成・送信までが自動化できるとする。
こうした自動化により管理者の負担を減らすことで、業務報告から不足している技術を見つけたり、それを補うために新規に雇用するか教育するかを判断したりといった、重要な業務に集中できるようになるという。
先行企業はCoPilotなどを使った業務の自動化を進めている
IFSが示した国際空港での例は単なる例示ではない。既に実例があり、効果を上げ始めている。例えば、リサイクル事業を手がけるノルウェーのTOMRAは、Copilotを使ってリサイクル設備の購入・選定に掛かる作業を自動化している。リストから注文に合わせて4つの候補を選び出し、購入費用と運用コストを含めた見積もりを依頼したり、受け取った見積書のPDFから必要な数値を自動で読み取り発注したりしているという。
スウェーデンの通信大手Ericssonは、毎日のメンテナンスに当たるフィールドワーカー1万5000人がIFSを利用している。システムへのログインで勤務状態を把握したり、作業車両の移動位置を確認したりのほか、作業スケジュールの調整にも使っている。作業記録から故障箇所を予測したり、その他のデータを組み合わせて障害に対応したりができる仕組みづくりに取り組んでいるという(写真2)。
こうした仕組みの実現に向けては、IFS自身の開発に加え、パートナー企業が持つ製品/サービスとの連携も進んでいるようだ。IFSが挙げたシナリオや例示が“当たり前”になるまでには、まだ数年かかるかもしれない。だが、産業用AIがもたらす変化は確実に起きるであろうだけに、IFSなどによる業種別のAI技術の開発動向には注目したい。