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生成AI時代の設計はタスクが自動化されアイデア創出に集中できる【前編】

「Autodesk University 2024」より

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2024年12月9日

3D(3次元)CAD(コンピューターによる設計)ソフトウェアなどを手掛ける米Autodeskが設計のためのAI(人工知能)機能群「Autodesk AI」の開発に力を入れている。年次イベント「Autodesk University 2024」(米サンディエゴ、2024年10月15日〜17日)では、アイデアの創出や競争力の強化に集中するためには、設計の自動化とチームワークの強化が重要だと訴求した。同イベントから、同社が考える設計へのAI技術適用の考え方やAutodesk AIの開発状況などを紹介する。

 「テクノロジーには多くの誇張が伴っており、過剰な期待が裏切られることもある。私たちはチームの生産性を妨げるボトルネックに対し、実用的なAI(人工知能)を投入していく」――。米AutodeskのCEO(最高経営責任者)であるアンドリュー・アナグノスト(Andrew Anagnost)氏は、同社の年次イベント「Autodesk University 2024」(米サンディエゴ、2024年10月15日〜17日)の基調講演で、こう強調した(写真1)。

写真1:米AutodeskのCEO(最高経営責任者)であるアンドリュー・アナグノスト(Andrew Anagnost)氏

 製造業では2023年度、「工場の建設費が前年比で70%増加し、その額が2000億ドルに達した」(アナグノスト氏)という。貿易摩擦や領土対立といった外部要因に対応するために、「製造機能をグローバルに再分配するために新しい工場への投資が押し進められている」(同)からだ。

 競争力の強化やコスト削減に向けて期待が高まるのが、生成AIをはじめとするテクノロジーである。特に製造業は「AI技術に対し、どの産業よりも大きな賭けに出ている」とアナグノスト氏は強調する。ただ、「多くの企業がAI技術の利用を実験段階から投資段階へと移す中で、AI技術の有用性を実感する前に欲求不満に陥っている」(同)ともいう。

 例えば、生成AIによって作成されたアウトプットが、期待するイメージとは異なるなどである。アナグノスト氏は、「AI技術はいまだ、それを開発している企業にとっても初期段階にある。だからこそ当社は“期待外れ”を生み出さないように、現実的な問題を解決するAI技術に注力する」と力を込める。

イラストから3Dの構成部品を生成する「Project Bernini」

 Autodeskは2023年の「Autodesk University 2023」において、自社製品に搭載するAI技術群を「Autodesk AI」として整理して発表した(関連記事)。今回は、そのAutodesk AIを「具体的な問題の解決策」にするために3D(3次元)モデルを生成する研究プロジェクトである「Project Bernini(プロジェクト・ベルニーニ)」を紹介した(図1)。

図1:生成AIを研究する「Project Bernini」が生成したデモ画面の例(開発中)。車のラフスケッチから複数パーツからなる3Dモデルを生成する

 Berniniが開発中の生成AIは、スケッチや自然言語、2D(2次元)画像などから3Dの幾何学オブジェクトを生成するもの。「設計の最も初期の概念設計(コンセプトデザイン)の段階でアイデアを素早く自由に生み出せるようにすることで、次の設計段階への移行を早めるのが狙いだ」(アナグノスト氏)という。

 ただBerniniが画像や動画などを生成するAIと異なるのは、生成するのが製品全体を表す3Dモデルではなく、全体を構成するパーツに分割し、それぞれの形状や構造を3Dジオメトリによって表現したものであることだ。パーツの構成や詳細度は、入力した指示内容や点群データなどを元にした制約条件で決まる。例えば自動車であれば、ボディやシャシー(車台)、タイヤ、ミラーなどに分かれる。

 生成した3Dモデルはそのまま、Autodeskの製造業向けクラウド「Fusion」上で利用でき、概念設計後の設計工程でも同じモデルを利用する。アナグノスト氏は、「誤った制約条件のスケッチは下流工程で、さまざまな問題を発生させ、フラストレーションが貯まる。初期段階から幾何学モデルを高精度に再現しておけば、設計変更が生じた際の柔軟性につながり、チーム間での手戻りの発生を削減できる」と強調する。