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オーストリア発のスタートアップ6社が「ANCHOR KOBE」でのピッチイベントに登壇

「AUSTRIAN STARTUP NIGHT IN KOBE 2024」より

野々下 裕子(NOISIA:テックジャーナリスト)
2024年12月27日

オーストリア政府はスタートアップ支援プログラム「GO ASIA」を主催している。GO ASIAに参加する欧州スタートアップを紹介するイベント「AUSTRIAN STARTUP NIGHT IN KOBE 2024」が2024年11月28日、神戸市が開設した「ANCHOR KOBE(アンカー神戸)」で開かれた。フードテックとアグリテックの両分野に取り組む6社が登壇した。

 オーストリア政府は、スタートアップ支援に力を入れており、複数の公的支援機関を持っている。そのうちのAWS(Austria Wirtschaftsservice:オーストリア経済サービス)とFFG(Forschungs-Förderungsgesellschaft:オーストリア研究推進機)は共同で、スタートアップの国際化を支援するイニシアチブ「GIN(Global Incubator Network)」を2016から推進している。GINには、海外展開を支援する「GO ASIA」と、海外スタートアップを受け入れる「GO AUSTRIA」の2つがあり、合わせて200社以上が参加する。

 今回、GO ASIAに参加するスタートアップが来日し、「AUSTRIAN STARTUP NIGHT IN KOBE 2024」(主催:在京オーストリア大使館と兵庫県、2024年11月28日)に登壇した(写真1)。GO ASIAは毎年、対象国にスタートアップを1~2週間派遣するグループプログラムを実施している。

 会場は、神戸市が開設し神戸新聞とトーマツが運営する会員制ビジネス支援拠点「ANCHOR KOBE(アンカー神戸)」。神戸市はスタートアップ支援の一環で海外スタートアップの受け入れ環境を整備する「外国人起業家・海外スタートアップ企業等のビジネスサポート」事業を進めている。オーストリアからのスタートアップに対しては2021年にハイブリッドでピッチイベントを開いて以降、毎年リアルイベントを開いている。

写真1:「ANCHOR KOBE(アンカー神戸)」で開かれた「AUSTRIAN STARTUP NIGHT IN KOBE 2024」の様子

健康指向で持続可能な代替食品をバイオテクノロジーで開発

 今回、オーストリアからフードテック分野から4社、アグリテック分野から2社の計6社が来日した。いずれもバイオテクノロジーやAI(人工知能)技術を用いた技術開発に取り組み、一部は特許も取得している(表1)。日本市場に向けては、単体でのビジネス展開よりも、企業や既存サービスとの協業を希望する。

表1:AUSTRIAN STARTUP NIGHT IN KOBE 2024に登壇したオーストリアのスタートアップ企業の概要
技術分野会社名事業/サービスの概要
フードテックAll But Sugar GmbH食品と製薬の両業界を対象に、特定用途に応じた砂糖の代替品を開発。砂糖の特性(味、体積、技術的機能性)を食品マトリックスで模倣し、味などはそのままに低カロリー化を可能にする
Biocraft Pet Nutritionペットを対象にした培養肉食品を開発。犬と猫の健康に着目したペットフードの開発に取り組む
Fermify乳製品の味や食感を持つ植物性チーズを大規模生産するソリューションを食品企業に提供する。乳製品に含まれる重要なタンパク質であるカゼインを完全自動で生産するAI技術を使った精密発酵プラットフォームを開発した
Freundeskreis GmbHアプリコットの種子など循環型原料を使用したヴィーガン乳酸菌と発酵プロセスを開発し、従来の乳製品に近い風味を持つ植物性チーズを製造する
アグリテックAI-Weeder GmbH芝生に生えた雑草だけを除草剤を使わず取り去るAIロボットを開発。同技術では特許を取得。既存の自動芝刈り機への搭載も視野に入れる
Vertus Energy AGバクテリアの挙動を電気制御し、廃棄物からバイオガスを製造する小型プラントを開発。同じ量の廃棄物から既存技術より最大60%多くの量のエネルギーを3倍の速さで供給できる

 フードテック分野の4社はいずれも、バイオテクノロジーを用いた健康と環境にやさしい代替食品の開発に取り組んでいる。Biocraft Pet Nutritionのように、犬や猫のための培養肉を使ったペットフードを開発するスタートアップもある。

 All But Sugarは、砂糖の代替品となる「Sugera」を「SMiLiNG FOOD」ブランドで展開するスタートアップだ(写真2)。100%植物由来で食物繊維が多く、砂糖本来の甘さや味を変えずカロリーを半分にした。味、体積、技術的機能性の軸で砂糖の特性を模倣し、利用ニーズに合わせたカスタマイズもできる。技術に関する資料も会場では公開し、既存の砂糖代用品に比べても高性能だと説明した。

写真2:All But Sugarは、バイオテクノロジーで砂糖の代替品「Sugera」を開発する

 Fermify とFreundeskreisの2社は、植物由来の乳製品を開発している。FermifyはAIを用いた発酵プラットフォームを使い大規模生産が可能な植物性チーズを開発しており、食品メーカーらへの提供を目指している。

 Freundeskreisはアプリコットの種から抽出した原料とヴィーガン乳酸菌を使ったチーズ「Cam-mmh-berta/カム・ムム・ベルタ」を製造・販売している(写真3)。Cam-mmh-bertaは原料を植物由来に変えながらも製造方法は従来と変わらないのが特徴だ。そのためか会場で試食したクリームチーズとカマンベールチーズは、筆者がこれまでに試した植物由来のチーズより、はるかに美味しかった。

写真3:Freundeskreis は普通のチーズと変わらない味わいの植物性チーズを作る