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DXを成功に導くには“Big Bet Leadership”が求められる、元Amazon幹部のジョン・ロスマン氏
「CIO Japan Summit 2024」より
新しい製品/サービスを考える際にロスマン氏が用いるのが、X軸にリスク、Y軸に報酬を取った四象限図だ。リスクが高く報酬が低い第4象限(右下)は検討外。リスクは低く報酬も低い第3象限(左下)は漸増主義の対象であり、「投資家もパートナーも顧客もが一緒に寝込んでしまう“退屈な映画”だ」(ロスマン氏)
最も良いのは、リスクが低く報酬が高い第1象限(左上)だが「実際には、そんなものはない」(ロスマン氏)。残るのはハイリスクで高い報酬が得られる第2象限(右上)だ。だからこそ「テストし、上手くいったものに投資をしていくことが重要になる。それにより賭けではなく素晴らしい投資になる。そして、その投資は小さく抑えることも大切だ」とロスマン氏は強調する。
またAmazonではイノベーションを促進するチームについて独自の考え方、すなわち「2ピザチーム」を採用している。「2枚のピザで賄える程度の大きさのチーム編成にする」という意味で、具体的には10人以下のチームを作る。加えて「専任チームにしたうえで、チームリーダーには組織全体に影響力を持ち、難しい判断もスピード感を持ってできるような人を選ぶことが重要だ」とロスマン氏は話す。
リーダーには戦略的な忍耐強さも必要
ロスマン氏がAmazonに参画したのは2002年のこと。当時は「Amazon.Con」や「Amazon.toast」「Amazon.bomb」「Amazon.org」などと呼ばれており「組織で売り上げる術を知らない会社で、持続可能性も疑われていた」とロスマン氏は振り返る。当時のAmazonマーケットプレイスは「2度も新しいモデルを試していたが上手くいっていなかった」(同)
そこでロスマン氏はベソス氏と共に新しいビジョンを提案した。だが社内の誰もが「上手くいかない」と反対。だがベソス氏は、そのビジョンにこだわり、新しいアプローチで試すことを決定する。2ピザチームを編成し、新しいAmazonマーケットプレイスを02年秋に立ち上げた。そこから7年をかけて規模を拡大し、盤石なものにしていったという。
その7年の間に「当初のロードマップにはなかった2つのBig Betを追加した」(ロスマン氏)。有料サブスクリプションサービスの「Amazon Prime」とAmazonの配送ネットワークを外部に提供する「Fulfilment by Amazon(FBA)」である。これらによりAmazonの勢いは増し、8年間横ばいだった株価も右肩上がりに転じた。ロスマン氏は、「実験的なアプローチに加え、戦略的な忍耐強さもリーダーには必要だ」と指摘する。
ハイパーデジタルの時代に勝つためにはトランスフォーメーションが不可欠な理由としてロスマン氏は次の3つを挙げる。
理由1 :さまざまなディスラプション(破壊)を起こすようなテクノロジーが登場している
理由2 :高齢化により労働力が不足していく
理由3 :国に負債がある。返済していくためには経済をさらに成長させていかねばならない
だからこそ「私たちは変革のリーダーにならなくてはならない。そして変革の波に乗るのは“今”だ。テクノロジーでリーダーシップを取れる人が変革のリーダーになる」とロスマン氏はエールを送る。
活発な質疑応答から
ロスマン氏の講演後の質疑応答から、いくつかピックアップして紹介する。
――Big Bet Leadershipは創業者がリードする企業なら容易だが、サラリーマン社長など自らリスクを取りたくない経営者の場合はどうか。
4人のBig Bet Legendのうちジョン・レジャー氏やナデラ氏は創業者ではない。創業者でなくても「何が問題なのか」「私たちが解決したいのは何なのか」「それに対する解決策は何なのか」を明確に考えられる人であればBig Betは可能だ。その際に鍵を握るのは、ステークホルダーを巻き込むための戦略的なコミュニケーションである。ベソス氏が1997年に株主に対し「Amazonの信念を信じられないのならAmazonには投資しない」という思いを綴った書簡は、その代表例だ。
――IT側のリーダーシップとビジネス側のオーナーシップは時に衝突する。両者は、どうすれば近づけられるか。
組織は典型的な日々の業務のために作られている。大きな変化は組織横断的的に起きる。だからこそ組織横断的な専任チームを作り、そのリーダーに会社として影響力を持つ人が就くことが大事なのだ。
――2ピザチームのリーダー像は分かるが、メンバーには、どのような人を組み合わせれば良いのか。
2ピザチームの構成は、会社の状況やBig Betで目指す方向によっても異なり、標準的なやり方はない。ある通信事業者が新ビジネスを作る際に結成したチームは、ネットワークと財務、通信事業ライセンスの各専門家と、電波の仕組みを理解している人、デザイナー、新ビジネスを考えることに長けている元マッキンゼーのコンサルタントなど、さまざまな分野の人たちが集まって構成されていた。だがチームは恒久ではない。事業拡大のタイミングでは異なるチームを構成する必要がある。

ジョン・ロスマン(John Rossman)氏
米Amazon.comに2002年から参画し、低迷していたAmazon マーケットプレイス事業を創業者のジェフ・ベソス氏とともに立て直した。同氏らが企画し立ち上げたサービスに有料サブスクリプションサービスの「Amazon Prime」とAmazonの配送ネットワークを外部に提供する「Fulfilment by Amazon(FBA)」である。これらにより、それまでの8年間、横ばいだった株価は右肩上がりに転じた。
現在は、Amazon.comでの経験を生かし、アドバイザーやコンサルティングパートナーとしてビジネス戦略やイノベーション、デジタル戦略、文化に関する洞察を提供している。『The Amazon Way Book Series』の著者で2024年2月には『Big Bet Leadership:Your Transformation Playbook for Winning in the Hyper-Digital Era』を上梓している。
ジョン・ロスマン氏のWebサイト:www.johnrossman.com