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DXを成功に導くには“Big Bet Leadership”が求められる、元Amazon幹部のジョン・ロスマン氏

「CIO Japan Summit 2024」より

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2025年4月25日

DX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させた企業の代表例に必ず挙がるのが米Amazon.comだ。そんな同社も2000年代前半までは「売り上げを高める術を知らない企業」と言われていたという。同社の変革を創業者のジェフ・ベソス氏と共にリードした元幹部のジョン・ロスマン(John Rossman)氏が「CIO Japan Summit 2024」(主催:マーカス・エバンス・イベント・ジャパン、2024年11月)に登壇し、DXを成功に導くリーダーに求められる考え方と、そのための習慣などを自身の体験を元に解説した。

 「ハイパーデジタル時代において良きリーダーになるにはコツがある」──。米Amazon.comの元幹部で、同社の変革を創業者のジェフ・ベソス氏と共にリードしたジョン・ロスマン(John Rossman)氏は、こう話す。

写真1:米Amazon.com元幹部のジョン・ロスマン氏。米Amazon.comの変革を創業者のジェフ・ベソス氏と共にリードした

 企業は今、競争力を維持しつつDX(デジタルトランスフォーメーション)を長期的に持続していくことが求められている。だが、それは「非常に厳しい戦いだ」とロスマン氏は語る。

 米マッキンゼー・アンド・カンパニーが経営者に対して実施した調査によると、経営者の80%以上が「イノベーションが最も優先される事項だ」としながらも、その結果に満足しているのは6%にとどまる。同調査は20年以上前から実施されているが毎年、結果は変わらない。

イノベーションが失敗する理由は自らの中にある

 ではなぜイノベーションは難しいのか。その理由としてロスマン氏は次の3つを挙げ、「敵は自分たちの中にある」と指摘する。

理由1 :意思決定の場面でインクレメンタリズム(漸増主義)が働くため。抜本的にバリューを変えるのではなく、過去の成功例に基づき、それを少しずつ変えるような方法を採ることが多い
理由2 :短期的な考え方をしてしまうため。企業にとっても個人にとっても当然の流れであり、どうしても短期的な結果を求めてしまいがちである
理由3 :企業経営に対し「ABC(Arrogance:傲慢、Bureaucracy:官僚主義、Complacency:自己満足)」があるため

 これらに対し、イノベーションの結果を得ている企業には「Big Bet(大きな賭け)Leadershipがある」(ロスマン氏)という。すなわち「イノベーションを起こし素晴らしい企業になるためには、大きな賭けが必要」(同)というわけだ。だが「大きな賭けはリスクが高く、大半の人が失敗してしまう」(ロスマン氏)のが実状だ。

 その中で、大きな賭けに何度も勝って来た「Big Bet Legend」と呼ばれる人もいる。ロスマン氏は、Amazon共同創設者のジェフ・ベソス氏、米テスラCEOのイーロン・マスク氏、米TモバイルCEOのジョン・レジャー氏、米マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏を挙げる。

 そのうえでロスマン氏は、「これら4人のリーダーには共通する3つの習慣があり、それが差別化要因になっている」と指摘する。

習慣1 :明瞭さを持つ。具体的に何をするべきなのか、何が問題なのか、どう解決するのかを明示する
習慣2 :進行速度の維持。一般的には最初はスピード感を持って物事に取り組むが、いつのまにか減速してしまうことが多い
習慣3 :リスクと価値の加速化。集中すべき対象を明確にし得られる価値を高める

 では、これらの習慣を身に付けるにはどうすれば良いのだろうか。ロスマン氏は、「Big Bet Legendは常に次のような質問を投げかける」という。

質問1 :「何が問題なのか」を問う。顧客を深く理解するために、単に顧客のニーズや要件を聞くのではなく、真の課題解決のためには「どのような仕事をすべきなのか」を深く理解する
質問2 :「What The Future?(WTF:将来は何か)」を問う。どんな結果を求めたいのかに対する仮説を立てるためで、制約なしで考える
質問3 :「Is the juice worth the squeeze?(果汁を搾る価値はあるのか)」を問う。市場として重要なところにフォーカスし、最初からコストモデルの優位性を追い求める

Amazonのイノベーションは「Working Backwards」で生まれる

 ではAmazonは実際に、これらを、どう実施しているのだろうか。イノベーションを生み出すメカニズムとしてロスマン氏は「Working Backwards」を紹介する。「顧客を起点にCX(Customer Experience:顧客体験)を徹底的に固めるメカニズムで『逆算思考』と呼ばれている」(同)という。

 Working Backwardsの基本は書くことだ。「書いては議論を繰り返し、アイデアを明確にしていく」(ロスマン氏)。その書くために次の3つのメモを利用する。

メモ1 :最悪なことは何か。これを考えることで顧客のことはもちろん、問題の本質が分かってくる
メモ2 :WTF。将来は何かに関することを書く
メモ3 :ジュース。絞る価値があるのかどうかを考える

 これらのメモを元に、将来のプレスリリースを書く。このプレスリリースを元に議論し、プレスリリースを書き直しながら議論する。そうすることで「考え抜くことができ、改善ができる」とロスマン氏は話す。同氏自身も「このメカニズムでAmazonマーケットプレイスを大きく変革できた」(同)とする。