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慶應義塾大学病院、退院時に必要な文書の下書きを作成する生成AIシステムを開発

DIGITAL X 編集部
2025年6月23日

慶應義塾大学病院は、患者の退院時に医師が準備する文書の下書きを電子カルテから作成する生成AI(人工知能)システムを、ITサービス業のアルサーガパートナーズと共同開発した。文書作成時間を短縮し、業務効率を高めるのが目的だ。アルサーガパートナーズが2025年6月17日に発表した。

 慶應義塾大学病院が開発した「退院サマリ作成支援AI」は、退院時に必要な「退院サマリー」の下書きを作成するための生成AI(人工知能)システム(図1)。退院サマリーは入院中の診療情報をまとめ他の医療機関とも共有するために作成するもの。新システムでは、患者のデータを電子カルテから読み込んで生成する。従来は手作業で対応していた文書の作成時間を短縮し業務効率の向上につなげる。

図1:慶應義塾大学病院が開発した「退院サマリ作成支援AI」のシステム構成

 退院サマリーは、診療科や疾患により重視すべき項目が異なる。そのため退院サマリ作成支援AIでは、各診療科の専門性に合わせてプロンプトを設計した。生成精度を高めるための補助機能として、不正確な情報を発見するための「キーワードハイライト機能」を用意した。情報の正誤を調べたいキーワードを入力すると、退院サマリーと、その元データ内の該当する単語をハイライトして表示する機能で、照合が容易になるという。

 システムはITサービス業のアルサーガパートナーズと共同開発した。生成AIには、米OpenAIの生成AI機能を提供する「Azure OpenAI Service」(米Microsoft製)を採用した。セキュリティを確保するためにAzure Open AIとはVPN(Virtual Private Network:仮想専用線)で接続している。他に、慶應義塾大学病院の情報セキュリティポリシーや厚生労働省、経済産業省、総務省が定める医療情報システムに関するガイドラインにも準拠しているという。

 退院サマリ作成支援AIは既に5つの診療科で利用を始めている。今後は、2025年末までにほぼ全ての診療科で利用を開始する。並行して「看護サマリー」の作成にも利用し始めたほか、紹介状や要約が必要な資料への応用も進める。慶應義塾大学病院 副病院長の陣崎 雅弘 氏は「診療における生成AIの活用は、今後の医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要な柱になると考えており、看護サマリーや医療安全面への応用も進めていく」と話す。

 アルサーガパートナーズによれば、診療内容に関する文書は医師が手作業で作成している。元になる電子カルテには膨大な入院履歴が記録されており、全てを確認しながら必要な情報を抽出・要約する必要があるため、退院サマリーの作成では1通当たり平均で約1~2時間を要している。作業の属人化や作成後の確認・修正作業も課題になっている。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名慶應義塾大学病院
業種医療・健康
地域東京都新宿区
課題退院サマリーは、医師が手作業で作成しており、多くの時間がかかるうえ、属人化や作成後の確認・修正作業が負担になっている
解決の仕組み退院サマリーの下書きを作成する生成AIシステムを開発し、文書作成時間を短縮する
推進母体/体制慶應義塾大学病院、アルサーガパートナーズ
活用しているデータ電子カルテに記載の診療情報など
採用している製品/サービス/技術AIサービス「Azure OpenAI Service」(米Microsoft製)
稼働時期−−