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実用化に向け急進する中国の人型ロボットの今、NRIの専門家が解説
スマホやEVでのサプライチェーンが背景に
これら事例が示しているのは、人型ロボットが産業構造を変革するということだ。ハードウェアの単体販売ではなく、ロボットを通じた総合的なサービスやソリューションを提供する「RaaS(Robot as a Service)」などのビジネスを創出する。
例えば、家電メーカーがロボットを通じた家事代行サービスを展開する。ロボットが栄養士やカウンセラー、介護士の役割を担うなどもする。製造業では、完全無人工場の導入が進み、受注生産を基本にした製造のサービス化を実現し、消費者が欲しいものを都度、生産できるようになる。
ではなぜ、中国のロボット産業が急発展しているのか。NRIが中国のシンクタンクである中国信息通信研究院と実施した共同研究から見えてきたことがあるという。中国の成功要因を李氏は、こう説明する。
「スマートフォンやEV(電気自動車)事業での受注生産を支えるサプライチェーンの存在と、完璧さを求めずに現場投入を優先するアジャイル(俊敏)なアプローチにある。そこでは(1)データの蓄積、(2)モデルの高性能化、(3)社会実装の3つを循環させる“フライホイール効果”を高速で回す点にある」
特に重要なのが、低コスト・高品質な部品の供給と量産体制の構築だ。人型ロボットは「改善・改良を繰り返していく開発段階にあるだけに、それに応えられる柔軟な受注生産が求められている」(李氏)
もう1つは「AI技術に対する社会の信頼度の高さ」(李氏)だ。NRIが日本、中国、米国、ドイツの4カ国で2025年に実施したアンケート結果によれば、AIに対する信頼度とロボットの利用意欲では中国が突出して高い(図2)。
単純作業だけでなく、教師や医師、警察官など専門職の領域においても、8割以上がロボットの代替に肯定的な意向を示す。これに対し日本は、単純作業への受容度はあるものの、専門職の代替には抵抗感が強く、利用意向が下がる傾向にある。
日本企業はマインドセットの転換が不可欠
これらを踏まえて李氏は、人型ロボット活用について日本企業に3つの取り組みを提言する。まずは、日本の独自データを生かすこと。内閣府が発表した『AIロボティクス戦略』などによれば、現場にしか存在しない価値の高い良質なデータが眠っている。「こうしたデータを収集したり、モデル学習に適した形へ加工したりする」(李氏)
次に、完璧を求めないアジャイルな社会実装を実現する。人型ロボットは100%完成してから導入する従来型アプローチではなく「未完成でも現場に導入し、需要を創出しながら、供給側と利用側が一緒にユースケースを作り上げていく必要がある」(李氏)。オープンソースのエコシステムをうまく活用し、開発と実装のスピードを上げていく。
加えて、安全性などに関する業界標準と規制の整備をセットで進める。ロボットの応用シーンを拡大していく中で「ロボットが人間に危険を及ぼすような安全上の問題が起きては元も子もなくなる」(李氏)からだ。そのためには、技術開発と業界標準と規制の整備を同時に進めていく。
既に中国は『人型ロボットおよびエンボディドAI標準体系(2026版)』を発表し、標準化に向けた技術基準の確立を急ぐ。とりわけ安全性を重視した標準案として「いかに人間に危害を加えないかという点に主眼を置いた厳しい安全基準の整備を進めている」(李氏)。2026年6月時点で9件の標準案が作成されている。
李氏は「日本企業がこの潮流に乗るためには、マインドセットの転換が不可欠だ」と助言する。
田中 克己(たなか・かつみ)
IT産業ジャーナリスト 兼 一般社団法人ITビジネス研究会代表理事。日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任。2010年1月にフリーのIT産業ジャーナリストに。2004〜2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。2012年10月からITビジネス研究会代表理事も務める。40年にわたりIT産業の動向をウォッチしている。主な著書に『IT産業崩壊の危機』『IT産業再生の針路』(日経BP社)、『2020年 ITがひろげる未来の可能性』(日経BPコンサルティング、監修)などがある。
