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CDOの“次の一手”、ブリヂストン、ヤマハ、SOMPOのDX推進戦略

「CDO Summit 2019」パネルディスカッションより

奥野 大児(ライター/ブロガー)
2020年3月11日

デジタルトランスフォーメーション(DX)で重要なのは、全社での目的意識の共有であり、そのためにCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)が果たす役割は大きい。東京・丸の内で2019年12月3日に開かれた「CDO Summit 2019」(主催:CDO Club Japan)のパネルディスカッションで、ブリヂストンのフェローである三枝 幸夫 氏とヤマハ発動機フェローの平野 浩介 氏がDXの本質について語った。モデレーターはCDO Club Japan代表の加茂 純 氏。なおビデオレターで参加したSOMPOホールディングスCDOの楢﨑 浩一 氏の講演内容を最後に掲載している。(文中敬称略。肩書はいずれも開催当時)

――平野さんはインテル幹部からヤマハ発動機に移りました。今、何に取り組んでいますか。

ヤマハ発動機 平野 浩介 氏(以下、平野) :ヤマハ発動機(以下ヤマハ)でフェローを務める平野 浩介です。ITのソリューションを売る立場から、ITを事業に生かす側に移りました。

写真1:ヤマハ発動機 フェローの平野 浩介 氏

 ヤマハは、自動二輪や水上バイク、電動アシスト自転車のほか、ドローンや他社向けの自動車エンジンまで非常に多品種の製品を製造しています。「顧客起点のビジネスを」がスローガンに掲げています。

 ところが実際には顧客情報をもっていません。私自身、ヤマハのバイクをこれまでに10台以上購入していますが顧客情報を登録したことがありません(笑)。世界に少なくとも5000万人はいるであろうヤマハの顧客とつながるビジネスを構築し、競争力のある未来のシステムを作りたいと思っています。

基幹システムのデータ統合をDXの基盤に

 そのために、まずはグローバルでカスタマーIDを設定し、ID管理を始めました。それにより顧客がWebで何を見ているのか、行動履歴はどうかを把握します。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)のデータも使ってセグメントの属性を深堀りし顧客を知ろうとしています。

 現在の課題は、海外子会社が多く基幹システムがバラバラであることと、本社だけでも自社開発のソフトウェアが130個もあることです。ヤマハの生業(なりわい)はモノを作って売ることですが、そこにデジタルを掛け合わせていきたいと考えています。

 そのための基盤として考えているのが基幹システムのデータ統合です。直接的には売り上げを伸ばす効果はないかもしれませんが、それがないとデジタルで何かをしたときの効果が測定できません。

 バイクやボートもコネクテッドの時代ですし、工場もスマート工場に様変わりしています。データ統合の基盤を作ることで、経営の意思決定や戦略的思考を加速させていきたいと考えています。

IT化とDXは別物だとの理解が重要

――三枝さんは、ブリヂストンのCDOとしてデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進してきました。

ブリヂストン 三枝 幸夫 氏(以下、三枝) :ブリヂストンのフェローの三枝 幸夫です。製造業においては、IT化とDXは別物だと社員に理解してもらうことと、マインドセットを作ることに時間と工数がかかっています。

写真2:ブリヂストン フェロー(当時)の三枝 幸夫 氏

平野 :DXを推進する本質的な理由は会社の生存戦略です。そのためにヒト・モノ・カネをどこに注力するかの合意がないといけません。目標があやふやなまま技術だけを加速させて不要なデータを集めても、データのゴミ箱になってしまいます。どこに目標を置くかを経営陣が考えたうえで、DXを生かした予知型の戦略を立てることが大切でしょう。

 予知型の経営判断をするうえで重要なのは、いかにデータを分析・予測できるかです。今の経営システムでは、12月に入ってから11月の業績を計算し始めて仮決算の数字が出るのは12月の終わりくらいです。その時点で11月のことを悔やんでもどうしようもありません。12月にみんなで議論すべきなのは翌年の1〜3月にどうしようかということです。