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社会を幸せにする人間中心のテクノロジーとは【前編】

SXSW 2020 バーチャルパネルセッション「Robotics for Well-Being」より

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2020年4月22日

誰もがクリエイターになれるスマートコンテンツ

 Ann Greenberg(アン・グリーンバーグ)氏は、デジタルメディアのパイオニア的起業家である(写真4)。デジタル音楽やVR(仮想現実)などデジタルメディア業界の最前線で活躍する発明家であり、シリアルアントレプレナーとしても知られる。

写真4:デジタルメディア業界のパイオニアでシリアルアントレプレナーのAnn Greenberg(アン・グリーンバーグ)氏

 具体的には、世界初のクラウドソーシング会社Graystonを1998年に共同設立。デジタルエンターテイメント会社のIONでは、当時最先端だったインタラクティブ技術を用いて、歌手のデビッド・ボウイをはじめとする著名人の作品などを制作した。2017年に起業した Entertainment AIでは、AIとブロックチェーンを使ってコンテンツを自動生成する技術「SmartScript」を開発し特許を取得している。

 SmartScriptは、「誰が、いつ、どこで」といった情報を含むマイクロメタデータを用いて、「ハイパー・パーソナライゼーション」と呼ぶ個人に特化したコンテクストを作り出す技術だ。グリーンバーグ氏は「人とマシンのそれぞれが持つ創造性を融合した新時代の“スマートコンテンツ”を生み出し発展させたい」と語る。

 これまでのコンテンツは、巨大な予算を集めて作られた1つのストーリーを多くの人が見る形式だった。スマートコンテンツでは「その人自身に合わせたストーリーを個別に作り出し、対価を支払う人たちがクリエイターとして作品に参加できるようになる」(グリーンバーグ氏)という。

 Entertainment AI の最初の製品である「SCEANPLAY」をグリーンバーグ氏は、「現実とバーチャルのコンテンツを融合した新たなストーリーを創造するエコシステムを生み出すプラットホームであり、新しい製品やビジネスを作る機会にもなる」と説明する(写真5)。「新型コロナウイルス対策のように人々を守るために社会的距離をとって生活しなければならない場合でも、何かを一緒に創造して共有する楽しみを作り出すことにもつながる」(同)とした。

写真5:SCEANPLAYは現実とバーチャルを融合させたコンテンツの創造に取り組む

 さらにグリーンバーグ氏は「Ann Noymus」という世界初のバーチャルヒューマンによるコラボレーションの創造にも取り組んでいる(写真6)。「人間の創造性をマシンが奪い取るシンギュラリティやビッグブラザーではなく、科学と情報によって人間が中心となるビッグシスターであり、ハイテクによる明るい未来をもたらすプラットホームを目指している」と強調した。

写真6:バーチャルヒューマンのAnn Noymusは人間とマシンを融合した新しい創造を可能にすることを目指している