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社会を幸せにする人間中心のテクノロジーとは【前編】

SXSW 2020 バーチャルパネルセッション「Robotics for Well-Being」より

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2020年4月22日

物理学の天才が取り組むアートサイエンスの教育

 Harold E Puthoff(ハロルド・E・プソフ)氏は、スタンフォード大学の物理学博士でEarth Tech International のCEOを務めている(写真7)。エネルギー生成や宇宙開発を手掛ける天才的な物理学者あるいはエンジニアとして知られ、83歳になる現在も、さまざまな新しい研究やプロジェクトに挑戦し続けている。

写真7:物理学者でエンジニアのHarold E Puthoff(ハロルド・E・プソフ)氏

 これまで関わったジャンルには、「Vacuum Energy(真空エネルギー)」という原子力に代わる新エネルギー理論の証明や、情報漏えいを完全に防ぎ安全な通信を可能にする「Secure Communications(セキュア通信)」、脳波を変換して機械を動かす「BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)」、脳の分布図解析などがある。

 米オースティン市に1991年に設立された高等研究所「Earth Tech International」では、CIAやNSA、NASAなどの政府組織や企業を対象に、量子物理学や宇宙理論などの最先端科学技術をアドバイスする専門家を務めた。

 2010年には科学技術の最先端トピックスを元に映画やストーリーの創造性を拡げるアートサイエンススクール「To The Stars」をミュージシャンのTom DeLongeと創業してもいる(写真8)。To The Starsで作られたアイデアはサイエンス番組などで一般に公開することで「その作品をヒントに視聴者が新しい科学技術や製品を発想するヒントにつなげようとしている」(プソフ氏)という。

写真8:アートサイエンススクール「To The Stars」では現実の科学技術から映像を創造する手法を学ぶ

 最先端技術についてプソフ氏は、「実用化までには時間がかかるものだ。超能力やUFOのように単なる想像と切り捨てられてしまうようなものから、人類に貢献するイノベーションを生みだす可能性をもつものもある。今後は、柔軟な発想力を身に付けるための教育が求められるのではないか」と指摘する。

 後編では、ロボット、AI、物理などと、専門領域が異なる3者へのQ&Aから、各氏の取り組みの詳細や、そこへの思いを紹介する。