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社会を幸せにする人間中心のテクノロジーとは【前編】

SXSW 2020 バーチャルパネルセッション「Robotics for Well-Being」より

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2020年4月22日

より新しいアイデアやコンセプトが提示されるとして注目を集める国際フェスティバルとなった「SXSW(South by South West/サウス・バイ・サウスウエスト)」。残念ながら「SXSW 2020」は中止になったが、会場で開催を予定していたパネルディスカッションが2020年4月9日、「Robotics for Well-Being(幸福のためのロボット工学)」と題してオンラインで開催された。同パネルの概要を前後編に分けて紹介する。

 「SXSW(South by South West:サウス・バイ・サウスウエスト)」は、音楽(Music)、映像(Movie)、テクノロジー(Interactive)の3ジャンルをテーマに掲げる世界最大の国際フェスティバルである。世界を変えるアイデアとインパクトを持つ人たちが一堂に会する“場”として注目が高まっている。毎年3月に米テキサス州オースティン市で開催され、約10日間の会期中に2000を越えるプログラムが行われる。

 日本での注目度も年々高まっており、パナソニックやSONY、NTTなどの大企業からスタートアップ企業、クリエイターまでが出展する。2020年は日本からのカンファレンススピーカーの数が過去最多になる予定だったが、新型コロナウイルス対策のため、残念ながら開催は中止になった。

 会場で開催予定だったパネルディスカッションをパナソニックが2020年4月9日、バーチャルパネルとなる「Robotics for Well-Being(幸福のためのロボット工学)」をオンラインで開催した(写真1)。

写真1:sessionのイメージ写真

 パネリストも当初予定と同じで、パナソニック「Aug Lab」のリーダーを務める安藤 健 氏、デジタルメディアのパイオニア的起業家のAnn Greenberg(アン・グリーンバーグ)氏、スタンフォード大学の物理学博士でEarth Tech International のCEOを務めるHarold E Puthoff(ハロルド・E・プソフ)氏が登壇した。進行は企業コンサルタントのSandeep Kumar(サンディープ・クマー)氏が務めた。

 SXSWのカンファレンスは、1つのテーマに対し複数のスピーカーが、それぞれのバックグラウンドや現在の取り組みを紹介した後に、聴講者からの質問にリアルタイムで答えながら新しいアイデアや未来に向けたメッセージへつなげていくというスタイルで進行することが多い。Robotics for Well-Beingでも、最先端の研究開発に取り組む3者がまず、それぞれの専門分野での活動や思いについて語り合った。前編ではその内容を紹介する。

幸せを拡張するロボティクス技術を研究

 安藤 健 氏は、パナソニックのロボット部門の責任者だ(写真2)。ロボット技術を活用したサービスやヘルスケアの領域において、自動化によって生産性を高めたり生活の質を改善したりする方法の研究開発や事業化を進めている。

写真2:パナソニックのロボット部門の責任者でAug Labのリーダーを務める安藤 健 氏

 「目に見えない人間の幸せ(Well-being)とは何かを考え、それを共有できる方法を考えることをライフワーク」という安藤氏は、研究開発拠点「Aug Lab」を率いている。「フィジカル(身体)とメンタル(精神)とソーシャル(社会)が調和したウェルビーイングを生み出すこと」が目標だ。

 Augは「Augmentation(拡張)」を意味し、「研究開発ではオートメーション(自動化)をどうオーギュメンテーション(拡張)するかにポイントを置いている」(安藤氏)。自動化には、医療や介護、農業など、さまざまな現場の仕事をロボティクス技術でサポートすることが含まれる。

 その一例として、脳性まひの患者が運転できる自動運転機能を持つ車椅子の研究開発を挙げる。介助者がいる場合と、いない場合をAI(人工知能)で分析することで、その患者が唯一動かせる左足のみで操作できる車椅子を開発した。安藤氏は「患者自身と、その家族らとの協力によって実現できた。開発に取り組んだチームメンバーも一緒に幸せを共有できた」と話す。

 もう1つの例が、幸せの共有を目指すコミュニケーションロボットのプロトタイプである「babypapa」だ(写真3)。丸みのあるずんぐりとした形のbabypapaでは、搭載するカメラで子どもや家族の貴重な瞬間を自動撮影し、仕事などで不在にしている家族とも共有するといった使い方を提示する。ロボットは単独で動作するほか、複数が連携した動作もできる。

写真3:コミュニケーションロボットのプロトタイプ「babypapa」

 その開発には、「700以上のアイデアと20のプロトタイプを元に1年をかけた。チームが一丸になって“幸せ”というゴールに向けた取り組みができたのではないか」(安藤氏)という。