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社会を幸せにする人間中心のテクノロジーとは【後編】

SXSW 2020 バーチャルパネルセッション「Robotics for Well-Being」より

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2020年4月28日

情報へのアクセスが容易なほどメディアリテラシーが必須に

 デジタルメディアのパイオニア的起業家のAnn Greenberg(アン・グリーンバーグ)氏に対しては、デジタルメディアやAI(人工知能)に関して質問があった。

質問 :偽の画像や動画で虚偽の情報を拡散するディープフェイクに対し、「Entertainment AI」が開発するスマートコンテンツが悪用されるのではないか。あるいは逆にフェイクを防げるのか。

グリーンバーグ氏 :まず、情報が加工されてなければフェイクではないということではない。メディアが配信するニュースに対して、真実かどうかを多角的な視点から検証できるリテラシーが必要だ。

 現代は情報に無限にアクセスできるため、それらを元に誰でもが簡単にツールを使って作為的な情報を発信できてしまう。スマートコンテンツも、ショート動画を無料で公開するプラットフォームとして、自分だけのストーリーを創造する機能や、再生数に応じてクリエイターに対価を支払う仕組みを提供している(写真3)。

写真3:AIとブロックチェーンを用いたスマートコンテンツは観客が自らストーリーを創造できる

 だが、それぞれのスクリプトに対してIPアドレスを付与することで、誰が管理している著作物かがわかり、使用に合わせた対価が得られるようになる。用途も主にエンターテインメントを想定している。

質問 :コンテンツをオンラインで自由にやり取りする際、個人情報をどう扱うのか。

グリーンバーグ氏 :もちろんパーソナルデータやプライバシーには配慮し、必要に応じて変更もできるようにしている。

 私は1998年に音楽配信サービスのための技術を開発するGracenote共同創業した。オーディオCDのタイトルや作詞・作曲者の情報を管理するデータベースも運用していたが、当時から個人データの保護を重要視する活動を行っていた。当時は技術の問題で十分に対応できなかったが、ようやく理想に近い対応ができるようになってきた。

 だが、ここでも利用者のリテラシーが重要になる。ユーザーが自身のコンテンツをコントロールする権利を維持するには、マーケットでの使いやすさも考えなければならない。オプトイン/オプトアウトのような個人情報の利用に関するルールを、より多くの人に知ってもらう必要がある。

行動や考えに影響を与える技術は多数実用化ずみ

 スタンフォード大学の物理学博士であるHarold E Puthoff(ハロルド・E・プソフ)氏には、超能力者といわれたユリ・ゲラー氏を調査した経歴を持つことから、ESP(Extra-sensory perception:超能力)やBMI(ブレイン・マシン・インタフェース)に関する質問があった。

質問 :博士はSFに出てくるような研究を数多く手掛けるが、ESPはどのように調査しており、それは科学的に実現できるものなのか。

プソフ氏 :ESPというと想像の産物のようだが、ある数字を見た時に脳がどう反応するかのパターンを調べることで、どの数字を思い浮かべたかは分析できる。この仕組みを脳波を感知するセンサーなどに置き換えることはすでに可能である。

 脳波を使って機械をコントロールするBMIも、原理を知らなければ超能力のように見える。見えない場所にあるものを知覚できるようマッピングするAR(拡張現実)も、テレパシーに例えられることがある。

 このオンラインカンファレンスに使われているリモートツールも含め、人の行動を拡張する技術はすでに数多い。それらを当たり前に使うようになることで、、これまで人々が行ってきたことを変える新しい扉を開く何かが生まれるのかもしれない。

質問 :ESPやBMIの研究は自閉症やPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療などに応用できるのではないか。

プソフ氏 :脳に関しては多くの人が研究している(写真4)。精神感応能力についても多くのことがわかってきているため、自閉症といった分野で実現される可能性はあるのではないか。

写真4:脳の研究は様々なところで進められている

 カンファレンスの締め括りとして安藤氏は、「新型コロナウィルスは人々の生活距離を分断し、これまでにない時間を家またはサイバースペースで過ごす状況を作り出している。ロボティクスやAI、5Gといったテクノロジーが、これからの新しいコミュニケーションを支える何かを生み出すのではないか」との見方を示した。

 それにはグリーンバーグ氏も同意し、「最新のテクノロジーは技術ではなく人間を中心にどう実装すべきかを考え、これから始まる社会のパラダイムシフトに対応させていくことが大事だろう」とした。

 本カンファレンスで紹介された、さまざまなテクノロジーが、これからの新しいコミュニケーションや社会のあり方と、どうつながり変えていくのか。2021年のSXSWでは、その成果が披露されることを期待したい。